もし読者諸兄がレーシングカートやラジコンにハマッているならば、今回のテーマは猛烈に興味深いと思う。だってカートもラジコンもフロントのトレッドを少し変えただけで、操縦特性がガラリと変わるのだから。具体的に言うと、フロントのトレッドを広げると前輪のコーナリング性能が上がるため、ハンドルを切った時のレスポンスは驚くくらいシャープになる。アンダーステアも消えるぞ。逆に狭くすれば、ハンドルをちょっと切っただけでスピンする神経質な特性が大幅に改善されるという寸法。ジツは実車も同じことなのだ。
クルマのサイズを示す場合、たいていは全長と全幅、せいぜい全高くらいで説明される、と思う。めったにホイールベースなんぞ話題に上がらないし、間違ってもトレッドなんか出てこないでしょ? ナニを隠そうワタシ自身もめったに書かない。なぜか? 理由は簡単。めっちゃオタッキーだからである。その証拠にモータースポーツ界じゃトレッド抜きにハナシなんぞ出来ないし、クルマの設計をする時もホイールベースを決めないことには先に進まないのだった。それぞれ役割が異なるので順に説明しよう。
<トレッド>トレッドの定義は『左右輪の間隔』である。スペックとしてはタイヤの中心の距離を表示するのが決まり。これだとタイヤの幅を変えても大きな差が出ないからだ。トレッドを広げるとどうなるか? こらもう御想像通り。横に対してのふんばりが効くようになるため、コーナリングで有利。速く曲がろうとするなら、トレッドをドンドン広げていけばよろしい。トレッド5mくらいのF−1を作れば強烈な横Gが発生し、もうコーナーでドライバーの首が折れるか失神するかしてレースにならないだろう。
とは言え現実的にはそんなに広く出来ない。日本やヨーロッパの道路サイズを考えるなら、1600oくらいが上限。フェラーリF50で1620o(以下前後輪いずれか広い方のスペック)となる。ワインディングロードを考えるなら、これでも広い。優れたスポーツカーである、と定評のあるクルマは1400〜1500oに集中。BMW−M3で1438o、ロータス・エリーゼ1450o、993ボディの911は1444oといった感じ。それ以上広いと、車幅もワイドになり扱い難くなってしまうのだ。
車高(正確に言えば重心高)も重要なファクターになってくる。トレッドが1400oで重心高700oだと、45度傾かせたら転倒してしまう。しかしトレッドが同じでも、重心高350oであればそれだけ踏ん張れるでしょ? といったことからすると、トレッドを1500oくらいで抑え、重心高を限り低くすればベストなスポーツカーになるってことだぁね。ベンツAクラスみたいなレイアウトは最も不利。車高に対しトレッドが狭いだけでなく、フロアなんて2重構造。下の階スカスカ。2階ブブンが重いため、重心高は普通のミニバンより高くなるから困ったもの。
これまた一般的な尺度ながら、車高とトレッドの関係をタイヤの扁平率みたいに表示することもある。トレッド1400oに対し全高1400oなら100。全高1260oで90。全高1120oは80だ。乗用車は100前後。2ドアクーペで90。ピュアスポーツになると80くらいが平均値。120を超えるとロールオーバー(平地でハンドルを切っただけで勝手にコケる)危険性を真剣に考えないとイケナイ領域になってくる。
前後のトレッドは、前後輪の重量バランスによって決められるのが普通。後ろの重いミドシップやRRは後輪がグッとワイド。自分でトレッドを変える場合、前を広げると低速コーナーでアンダーステアが減少する代わり、高速コーナーでオーバー気味になり安定性は落ちる。後ろを広くすれば低速域でのアンダーは強くなるも、高速コーナーでのスタビリティを高められるのだった。カートやラジコンをするなら、ヘタなうちは後ろのトレッドを広げる方向でセッティングすると簡単にスピンしなくなるぞ。
<ホイールベース>
前輪と後輪の間隔のこと。これまた車軸から車軸までの距離を示す。長いと安定性が向上し、短ければ曲がりやすいクルマになる。また4ドア車であれば、キャビンスペースに重大な影響を与えてしまう。というのもペダルの位置って、たいていホイールハウスの後ろ。そしてリアシートは、リアのホイールハウスの前にあるのだから。何のこたぁない。ホイールベースの中にキャビンがあると思えばよろしい。よってスポーティモデルのホイールベースはハンドリングで決まり、4ドアは居住スペースをどうするかで必要な数値が出るということね。
スポーティカーは難しいので4ドアから行くと「大人4人を座らせるなら最低で2500o。2600oくらいになるとユッタリ感が出始め、2700oあれば満足。3000oあると後席で足が組める」という水準。いろんなクルマを書き連ねると、旧型ゴルフ2475o、ベンツCクラス2690o、ベンツEクラス2833o、Sクラス3040o。日本車だとクラウン2780o、カローラ2466o、セルシオ2850oとなる。日本車は案外とホイールベースが短いから狭いということだ。
スポーティカーになると条件によって大きく変わるけれど、たいてい「ええっ?」というくらい短い。フェラーリF355で2450oとカローラ並み。ポルシェ993などは軽自動車レベルの2272oしかない! 硬派スポーツカーのTVRも、大きく見えるが2282oである。キビキビ曲がることを考えると、このくらいでいいのだ。これまた日本車のスポーティカーは長く、スープラ2550o、NSXで2530o。さすがにマツダ・ロードスターあたりになると2265oと、ちょっとスポーツカーが解ってる感じでしょうか?
ま、ホイールベースは買った後じゃ直せないので、対策しようとしてもアカン。
最後に「公道でイチバン速く走れるクルマ」のスペックを書いておく。輸入車ファンにとっちゃ残念ながら、最も速いのはインプレッサWRX。サーキットから細かいワインディングロードまで10番勝負でもすれば、こいつに勝てるクルマはなかろう。インプレッサWRXのトレッドは1460oで、ホイールベース2520oとなる。トレッドはドンピシャ! ホイールベースは長めながら、現在の技術を持ってするとこのくらいが高速域での安定性と曲がりやすさを両立させられる長さなのだそうだ。