ついこないだまで、左ハンドルと言えば『ガイシャ=ステータス』という強いオーラを持っていた。スタイルで輸入車を見分けられる素人はムカシから少なかったが、ハンドル位置なら誰でも解る。よって左ハンドルに乗っていると見事金持ちっぽかったのである。ジャガーやロールスロイスさえ左ハンドル比率が高かったのだから驚いちゃいます(さすがにミニくらいになるとクルマ通のユーザーが増えるので右ハンドル主流)。なんとも情けないこと。先日、そんなハナシをギョウカイのヒトとしてたら、今でもジャガーの左ハンドルを欲しがるヒトがいるそうな。合掌。



 そんならアンタどうなの? と言われたら、答えは「基本的には本国と同じ側を選ぶ。ただしっかり作り込まれたクルマなら左ハンドル嫌いのヨメも乗るので右ハンドルにしておこうか」だ。なぜか? 理由を説明する。まず基本的には本国と同じ側を、というロジックだが、日本仕様のアルファ145(なぜか右ハンドル)に乗れば誰でも即刻納得してもらえると思う。もはやドライビングポジションときたら、メチャクチャだもの。特にヒドイのがペダルレイアウト。

 ドライバーの足下スペースを想像して欲しい。FF左ハンドル車の場合、ホイールハウスの出っ張りが左サイドにあるため、ペダル類の制約など無い。右ハンドルだと途端に困る。右にあるホイールハウスを避けると、アクセルがドライバーの真正面になっちゃうのだ(ひどいクルマになると左に寄ってることすらある)。145は可能な限り右に寄せようと努力した結果、アクセルペダルが手前方向に突き出てしまった。もうヒール&トゥどこじゃない!ブレーキをつま先で踏むと、アクセルはふくらはぎの横だぜ!



 145のオーナーの方々は納得して乗っておられるようだけれど、左ハンドルを運転したら目からウロコが落ちるか、コンタクトをしたようにクッキリ145の楽しさを感じられると思う。左ハンドルの145って、そりゃ筆舌につくしがたいくらい素晴らしいクルマである(右ハンドルでも十分楽しいがね)。100歩譲ろう! 145はマニュアルなので、不便なだけで済む。しかしATになるとペダルの踏み間違いも発生するからアブナイ。前述の通り右ハンドル化の強行により、アクセルは左においやられる。本来ならブレーキペダルに位置にアクセルペダルがあるモデルも多い。
 一昔前の右ハンドルATは大半がそうだ(日本と並ぶ右ハンドル国であるイギリスはAT比率が低いので問題なかったのだろう)。ポルシェ911カレラ2のATや、旧世代のアウディなど怖い怖い。シフトロックが付いていない旧世代輸入車AT右ハンドルの中古車を買うような時は、しっかりとペダルの位置を確認するように。乗り込んで無意識にブレーキを踏んでみる。そいつがアクセルだったり、アクセルとブレーキ両方のペダルを同時に踏んでいたなら、必ず右足でブレーキを踏んでからATのセレクトレバーを操作するクセをつけなればならぬ。

 二つ目は操作系の不具合。左ハンドルしか意識しないで設計されたクルマは、ステアリングシャフトやブレーキのマスターバック、アクセルワイヤーなどの取り回しで苦労する。ワタシが持っていた旧式のボルボなどは、リンク機構でアクセルの開閉を行っており重いの重くないのって……。新型キャデラックなども右ハンドル化にあたりブレーキをシステムごと変更しており(左ハンドルはマスターバック式。右ハンドルが油圧式)、やっぱり激しい違和感が残ってしまった。
 シャシダイナモで正確な出力を計ったワケでないから車名を出せないものの「ステアリングシャフトの取り回しなどで吸排気系の配置変更を余儀なくされ、それによって効率が落ちた」とか「エクゾースとパイプの近くを油圧系が通るようになったので熱対策のため高回転域の混合比を濃く(濃くすると排気温度が下がる)しなければならなくなった」等、右ハンドル仕様だけ大幅なパワーダウンとなっているモデルも少なくない。逆に右ハンドルになって良かった、というハナシは聞かないので、まぁオリジナルの設計がいいのだろう。

 三つ目は衝突安全性。左ハンドルについちゃ、アメリカや西ドイツがムカシからしっかりと衝突実験を行い、安全性を確保してきた。特にアメリカは1970年代前半から厳しい衝突基準を正式に課していたため、日本車もアメリカ輸出モデルだけ特殊スペックだったほど。しかし右ハンドル仕様の衝突実験となると、大いに?マークが付く。なかでも不安なのはFF車。FF車のボンネットを開ければ解るけれど、たいていの車種が右にエンジンを寄せている。ドライバーの座る左サイドにはステアリングシャフトが付くので、そいつと干渉しないようになっているのだ。
 エンジンの位置そのままでハンドルを右に移したらどうなる? エンジンの後ろ側にステアリングシャフトが付くことに。この状態で衝突実験を行ってくれていけばいいが、してなかったら怖いぞ! ドライバーの足下にステアリング系が飛び出してくるかもしれん! 運輸省は輸入車に対して寛容なので、右ハンドル仕様車の衝突実験データの提出など求めていない様子。ただし最新のEU規制をクリアしているモデルなら心配ない(ユーロNキャップという衝突実験は右ハンドル車でテストを行う)。

 以上、ザッとウンチクを説明してみた。参考までに書いておくと、ワタシが持っている輸入車は、左ハンドル2台に右ハンドル1台。右ハンドルはディスカバリーなので、本国仕様も右である。様々な輸入車をテストした経験上からすると、FRレイアウトのベンツやBMWなどは案外と右ハンドルもキチンとしていると思ってよろしい。運転のしやすさに関しては個人の見解によって意見が別れると思うので、あえて触れなかった。個人的にはそれぞれに長所弱点があり、決定的な違いはないと思っている。
 そうそう。右ハンドルの輸入車のうち、ごく一部を除くとウィンカーレバーが左に付いている。知らずに乗るとスタートからワイパーなど動かして失笑を買う例のアレ。興味深いことにイギリス車もウインカーだけ左。不思議に思っているヒトも多いだろう。これまた理由がある。EUの統一規則によるとハンドルはイギリスだけ右で良いことになっているが、ウインカー位置のみ左と決められているのだ。ヨーロッパ車の日本仕様で右ウインカーになっているのは、相当気合いを入れて作られたと思ってよろしい。