15年くらい前、当時最新モデルだった空力自慢のアウディ100をドイツで乗った時「こらすげぇ!」と心底タマげてしまった。エンジンは136馬力の2、2リッター。車重が1250sあるため、発進加速はマークUの2000ツインカムくらいの感覚である。街中を走っているときは、まぁこんなもんかフィール。しかしアウトバーンに入った途端に、冒頭に書いた通り「こらすげぇ!」の連発となってしまう。2リッター150馬力クラスのクルマだと、普通なら150qくらいから加速が鈍り始め、160qを超えると明らかに頭打ち感覚。
 なのにアウディ100ときたら、150qを超えてもスルスルと加速を続け、180q近辺まで簡単に届く。このあたりから頭打ち感覚が現れるものの、最高速はカタログデータの202qを確実にオーバーしたのだった。参考までに当時のデータを書いておくと、160馬力のマークUは一回りボディが小さいのに180q近辺。ほぼ同じボディサイズを持つBMW728iなど、184馬力の2、8リッターエンジンで201q。アウディは50馬力分を空力の良さで稼いだワケ。

 アウディ100の登場によってライバルメーカーは大きな衝撃を受ける。それまでの高性能車って、スポーツカーを除けば最高速200q程度。空気抵抗など、あまり気にないで済んだ。でも200qを超えるとなると、空気抵抗がイチバン大きなテーマになってくるのだった。以後、空力は進歩を続け、1980年代後半になるとアウディ100のCD=0、30がベンチマークに。ベンツEクラスや、オペル、BMW、そして日本のメーカーなども後を追う。
さらに90年代に入るやCD=0、30を切るクルマも増え、今やCD=0、27という世界最高水準の空力ボディを持つVWパサートまでデビュー!一昔前までCD=0、27といったら、ほとんどモーターショーに出てくるようなノメノメの宇宙船みたいなカッコにしないと実現できなかったのに……。とは言えパサートのルーフ形状や、キャビンなどを入念にチェックすると、水滴のようなライン。相当に気合いが入ってる! さすがにCD=0、27は威力絶大らしく、わずか125馬力の1、8リッターエンジンで最高速206qも出ちゃう。
 
 興味深いことに、CD=0、30の旧型ベンツEクラスがパサートと同じボディサイズを持っていた。CD値は0、03の差。たった0、03でどのくらい効果あるのか? 最高速を調べてみたら、136馬力の2リッターでパサートの1、8リッターより遅い200q。235qという実力を持つ220馬力の3、2リッターエンジンを搭載するE320は、2、8リッター193馬力のパサートに負ける。CD値が0、03違っただけで大きな差になるのだ。
 御存知の通り、今や環境の時代。少しでも燃費を向上させないとイケナイ。当然、排気量の少ないエンジンが有利となる。それでいてユーザーは高速巡航性能も確保しろと言う。両立させようとすると、CD値を下げるしかないのだね。といった経緯からCD値の低減は、どこのメーカーもメインテーマとなっている模様。ベンツの次世代モデルは軒並みCD=0、27を下回るという情報も流れているほど。21世紀のクルマに位置づけられているハイブリッドカーだって、空力を減らさないと燃費を稼げない。

このように重要なCD値だが、たいていのヒトは具体的にナニを以て良しとするか解ってないと思う。いや、ギョウカイジンでも解ってないヤツが多い。再確認しておくけど、CD値は空気抵抗計数のこと。どのくらいスムースに空気が流れるかを示す。したがってサイズは関係なく、飛行機のようにでっかいボディでCD=0、10なんてのもあるし、逆に自転車などCD=0、5を超えてしまう。
 ちなみに空気抵抗そのものの大きさはCD値×前面投影面積(真正面から見た時のボディサイズ)で決まる。最高速はクルマを抑えようとする空気抵抗と、進めようとするエンジンパワーが釣り合ったところというワケ。自転車や原付バイクに乗っていれば、空気抵抗がどんだけ大きいか実感出来よう。したがってCD値を減らしても、車体サイズが大きくなってしまえば空気抵抗は増大する。CD値はボディ形状で決まるのだ。

 先日も某誌に掲載されていた新型アストラの試乗記を読んでたら、先代と比べ空気抵抗は6、4%減のCD=0、29になったという説明の後「前面投影面積が増えたにも関わらず空気抵抗が減少している」などと書かれていた。単純な誤解なら許せるも、ここまでウンチク語られたらガマンならぬ! おそらく書いたヤツはCD値のことを空気抵抗のことだと思ってるのだろう。新型アストラについて正しく解説するなら「ボディを大きくしたので本来なら最高速は落ちるのだが、CD値を向上させたため性能を落とさずに済んでいる」である。解ったかね?
 さて、CD値の他にも重要な空力スペックがある。そいつぁ『L』と略されるリフトと『Y』のヨー(CDのDはドラッグの略)。リフトは文字通り「持ち上げる」の意味で、普通は上向きの力を示す。スポーツカーなどでは重要なスペックとされており、リフトすればそれだけ路面に対する接地荷重が減り安定性に影響を与える。最新の高性能スポーツカーは、マイナスリフト(ダウンフォースと呼ばれる)、すなわち下向きの力が加わるように設計されることが多い。例えばスカイラインGT−Rなら、200q時に約100sくらいのダウンフォースが掛かるそうな。

 100sの力で路面に押しつけられれば、コーナリングもググッと有利になるという寸法。フェラーリF355も100sのダウンフォースを発生する(何qの時かは不明)。ただし前後のバランスが大切。フロントのダウンフォースが強すぎれば高速域で前輪だけグリップするようになり、オーバーステアになってしまう。普通はリアだけ強くダウンフォースを付け、高速域でオーバーステアにならないようセッティングされる。逆にリフトするようだと怖い。930までのポルシェ911はフロント側の方がリアより大きくリフトするため、180q以上になると徐々にハンドルが軽くなっていき、220qを超えると、真っ直ぐ走らせるのに神経を使う。このあたりは奥深いので、またの機会にしとく。
 ヨーは横風を喰らった時の挙動。こいつぁもちろん少ない方がいい。ボディ後半の横面積を大きくすると(極端に言えば飛行機の垂直尾翼のような形状)、横風を受けた時でも姿勢を立て直そうという動きが出る。やりすぎるとバランスを崩すので市販車でヨーまで考えているモデルはほとんど無いと思う。とりあえずCD値とリフトに付いて知っておけば、人前でキチンとウンチクをカマせると思う。参考までに書いておくと130qくらいの巡航でも空力は燃費に影響する。飛ばすヒトはCD値の低いクルマを買うこと。