プリウスのエンジンは『アトキンソンサイクル』と呼ばれる聞き慣れないタイプの低燃費タイプが搭載されている。どんなエンジンか? 普通のエンジンの場合、吸気サイクルは最後の方までバルブを開いたままにしておく。つまり吸気バルブは下死点(ピストンが最も下がった位置)近辺で閉じ、そこから圧縮を開始する。高回転/高出力を求めると、そういったバルブタイミングが好ましいからだ。しかしこれだとエネルギーの全てを使い切れない。
 そこでアトキンソン氏(イギリス人)は考えた。ポンピングロス(次章のD4&ディーゼルのところで詳しく説明する。そっちを先に読んでも良い)を減らし、熱エネルギーをもっと有効に使う方法を。そいつがアトキンソンサイクルで、こいつをベースにアメリカ人のミラーさんが改良を加えたものをミラーサイクルと呼ぶ。高出力を得ることは諦めなければならないけど、ディーゼルに匹敵する燃費性能を持つのが特徴。



 ちなみにミラーサイクルは鏡のようにツルツルさせて内部抵抗を少なくすると思ってる人もいるようだけれど、そいつぁ大ウソだ。マツダが数年前に実用化したが、搭載したクルマの車重も重く、さらに効率の悪い過給を行ったため燃費がいいという評価を得られなかった。
 もう少し詳しくアトキンソンサイクルの解説をしよう。前述の通り普通のエンジンはピストンが下がりきった状態まで空気を吸い込んで圧縮を開始する。1500tエンジンなら、1500t分の空気を圧縮するワケ。アトキンソンサイクルは違う。ピストンが上がる途中までバルブを閉めないのだ。1500tエンジンなのに、1000t分の空気しか吸わないのだな。

 ピストンは下死点まで下がった後、1000t分の空気を圧縮して爆発。爆発した燃焼ガスは非常に高温で、膨張する。こいつを利用し、今度はピストンが下がりきるまで排気バルブを開かない。何のことはない。1000tの空気を吸って、1500t分の仕事をさせてやろうという欲張ったエンジンなのである。だから熱膨張比サイクルと呼ぶ。
 1000tの空気しか吸わないんだから(厳密に言えばプリウスの吸気バルブを閉じるタイミングで吸える空気の量は970tエンジンと同等)、当然ポンピングロスも1000tと同等。1500tエンジンとして考えるなら、凄くロスの少ないエンジンとなる。
 弱点はパワーを出せないこと。吸う空気の量が少ないため最高出力は1500tにも関わらず58馬力しかない。カローラの1500tエンジンで100馬力だから、実力的には900tくらいのエンジンと同等。いくら燃費がいいアトキンソンサイクルも、このエンジンだけで走ろうとしたら無理だ。最大トルクも10、4smと、これまた1000tエンジンと同じレベル。だからアトキンソンサイクルは高出力が求められる自動車用エンジンとして実用化出来なかったのだろう。

 プリウスに搭載される『1NZ−FXE』型エンジンの燃料消費率は極端に小さい。アトキンソンサイクルという効率の良いシステムを採用しただけでなく、最高出力回転数を4千回転にしたためである(標準的なエンジンの最高回転数は6千回転くらい)。これはどういった意味があるか? 
 6千回転回るエンジンなら、連続で6千回転ブン回した時の耐久性を持ってないとイケナイ。一方、丈夫なクランク、剛性の高いシリンダーブロック、高回転で確実なバルブ駆動を行うスプリング等は、全部エンジンの摩擦抵抗を増やす。6千回転にもなると発熱も多いため、それを冷却するための大きなラジエターや、水を循環させるポンプも必要。



 最高4千回転でいいなら、こういったパーツの効率を大幅に向上させることが可能。1500tエンジンながら、エンジンの摩擦抵抗は1000tエンジンさえ下回る。3千回転で巡航している時の燃費は、1000tエンジンより少ないと思ってよろしい。
 バルブ駆動系にはVVT−iと呼ばれるトヨタ得意のバブルタイミング可変機能が付く。システムはホンダのVTECと同じで、本来は低速トルクと高回転域の伸びを両立させるため使われる。しかしプリウスはバルブタイミング可変システムをエンジン始動/停止時に働かせ、スムースに掛かり、止まるよう仕立てた。VVT−iがなければ、エンジン始動/停止の時、普通のクルマみたいに車体まで揺らせてしまうだろう。

 排気ガスレベルは非常に低い。表を見ていただければ解る通りNOx、HC、CO共に規制値の10分の1。一段と厳しい7都県都市/6府県指定低公害車基準値(NOxで0、12g/q)も楽々パスする0、03g/q。ホンダのアコードとシビックにラインナップされるLEVと同じと思っていい。ニオイを嗅いだが、無臭といった感じだった。
 さらに嬉しいのは、ほとんど全回転域でクリーンな排気ガスを出す点。普通のエンジンの場合、排気ガス濃度が低いのはアクセル開度の小さい時だけ。高回転まで引っ張ると、燃料でシリンダー内を冷却するため空燃比を濃くする。そうすると濃いHCやCOを出してしまう。全開加速中のクルマの排気ガスが臭いのはHC(燃え残りのガソリン)をタレ流しにしているためだ。クリーンだと言われる触媒付きガソリンエンジンも、パワーを出した途端、毒ガスをまき散らしてしまうということ。
 プリウスに搭載されているアトキンソンサイクルはそういった無理なパワーの出し方をしていないから、全ての回転域で高いクリーン度を保てる。こういった使い方が出るのも、ハイブリッドならではと言えよう。
 また、将来的にはターボ過給も考えられる。上手に過給してやれば、大量の空気を押し込んでやれる。そうすればパワーも上がるという寸法。2000tクラスのクルマにTHSを積むときは、排気量拡大よりターボ過給の方が効率的かもしれない。