M3というモデル、最初はモータースポーツに参戦するためのエボリューションモデルであった。現在で言えば三菱のランサーエボリューションみたいな存在。1980年代、ヨーロッパでグループAのレースが大いに盛り上がる。そこにBMWも飛び込んでいくのだけれど、グループAのレギューションによって、市販車と違うボディやエンジンを使えない。それじゃ勝てん、ということで急遽開発したのが、3シリーズをベースとした『M3』。地味な外観ながら、気合い十分!
 エンジンはF−1エンジンのシリンダーブロックにまでなった伝統ある4気筒を、2,4リッターまで拡大。ボディもワイドタイヤが入るよう(グループAのレギュレーションによれば、ボディパネルの変更は一切出来ない)、フェンダーを広げた。それだけじゃ気が済まないBMWは、トランクリッド高くしリアガラスの取り付け位置まで変えている。トランクリッドの位置高くなれば空気抵抗を低く出来るのだ。かくしてデビューした初代M3は、高価だったにも関わらず、レースをやらないユーザーからのオーダーが殺到。

 先代3シリーズE36時代はすでにグループAのレースも行われなくなった。エボリューションモデルは不要になる。しかしユーザーのリクエストに押された格好でM3が設定されることに。かくしてモータースポーツのベース車両だったM3は、BMWのスポーツ路線を引き継ぐイメージリーダー的存在に育っていく。そんな流れにより現行3シリーズにもキッチリとM3が存在するのだった。しかも内容&性能たるや、初代M3など相手にならないくらい過激! 
 なんせ搭載されるエンジンのスペックが凄い! 直列6気筒3,2リッターから、リッター100馬力を越える343馬力を引き出す! さらに驚くのが37,2kgmという最大トルク。普通、トルクは100ccあたりおよそ1kgmである。3,2リッターなら32kgm程度。ちなみにホンダNSXのエンジンはM3と同じ3,2リッターで280馬力/31kgmです。加えてM3の数値って最低保障馬力。ヨーロッパで販売している最も品質的に劣るハイオクを入れた時のもの。日本のガソリンならもっとパワー出るだろう。

 足回りだってハンパじゃない! タイヤはフロントが225/45R18。リアに255/40R18を履く。このサイズ、ポルシェ911より大きいのだ。もちろん標準のボディにゃ収まりきらず、フェンダーを左右20mmずつ膨らませて対応。車高も30mm程度ローダウンし、サーキットさえホンキで攻められるダンパー&バネを組み合わせた。感心するのが車重。排気量少ない330iの1520kgより軽い1495kgしかない。軽量化までやっているワケ。
 よく「BMWは4ドアのスポーツカー」などと言われる。M3を見ると、スポーツカー意外のナニモノでもない(ドア2枚ながら実用に耐えるリアシートを持つ)。「ピュアスポーツそのもの」である911より多少重いものの、43馬力も上回るエンジンでカバー。エンジンだけで評価すれば、もう圧倒的にM3優勢。それでいて価格は800万円だ。決して安い価格じゃないが、911の990万円やNSXの970万円と比べればリーズナブルとさえ感じます。

 乗るとどうか? 簡単に表現すれば「速い! 速い! とっても速い!」。トラクションコントロールをカットして全開加速すると、いともたやすくリアタイヤは空転。そのままホイールスピンしっぱなしのまま軽く30m以上走ってしまう。おそらく343馬力は後輪駆動というレイアウトにとっちゃ限界を超えているんじゃなかろうか。だってほとんどレーシングカーの世界なのだ。最盛期のグループAが、ちょうど現在のM3くらいのパワーだったと思う。そいつをミゾ付きの公道用タイヤで受け止めなければならない。
 ただ強固だと言われる3シリーズのボディを持ってしても、ぶっといタイヤは負担大きいらしく、路面の継ぎ目など通過すると「ぶるるん」と震えてしまう。3シリーズ特有のしなやかさは失ってしまった。また、姿勢制御装置ASC無しだとBMWも手に負えなかったんだと思う。コーナーを思い切り攻めれば割と早いタイミングでASCが介入し、姿勢を修正しようとしてくる。でもM3に乗っていると「そんなことど〜でもいいじゃないの!」と思えてくるから不思議。

 友人から「M3ってどうよ?」と聞かれたら、間髪入れず「いいよ!」である。ターボ無しの911よりエキセントリックだし、乗っていてパンチあって楽しい。で、190万円も安いときた。3日間ほど試乗したのだけれど、1週間経った今でもBMW特有のスムースかつ味のあるストレート6のフィールが蘇ってくる。やっぱりBMWは6気筒だ。やっぱりBMWはマニュアルミッションだ、と思う。そうそう。試乗車は右ハンドルだったが、買うなら左をプッシュしておく。