隠していてもバレるから書くけれど、実はNSXを買ってしまったのだった。正確にいえば昨年の2月、シカゴショーでデビューした時点で「出たら買うからね!」とホンダに宣言していたのだ。そうはいったものの、価格は解らないし、開発段階ではあまりいいウワサを聞かなかったものだから気持ちは揺れた。一時は本気でポルシェカレラ2に乗り換えようかと思ったほど。
ところが、である。実際に日本仕様を見た瞬間、顔がほにゃほにゃになってしまった。想像以上にかっこいいじゃないの! 驚いたことにショーモデルより仕上げが一段とよくなり、強烈なインパクトを持っている。
スタイルだけで「フェラーリに勝った!」と本気で思ったくらい(この時点で、ボクは自動車評論家ではなくなり、只のクルマ好きのお兄さんになってしまった)。
試乗してみると、たいして期待してなかった加速も強烈である(ノンターボの3リッターだからたかがしれている、と思っていた)。したがって試乗直後に撮った写真は、きっと相当だらしない笑い顔じゃなかろうか。
クルマ好きのお兄さんの前置きはこのくらいにして、厳しい自動車評論家に戻ろう。さて、詳しい紹介に入る前にNSXのようなスペシャルモデルに対する『心構え』について、ちょいと説明しておく。こいつを理解しとくとNSXの見方が少し変わると思うので、つまらないだろうけど読んで欲しい。
普通、商品を開発するときはマーケットリサーチをする。ようするに「どんな人が買うか」という調査だ。性能や価格、スタイルを含め、ユーザーの分析をするワケ。
そして商品はある程度消費者の嗜好に合わせる。性能を削ってもコストを下げたり、消費者のアンケートを取り、みんなが好むスペック(クルマでいえばツインカムや4WDといった流行)を採用したりするのがそれ。日本車が最も得意とする分野だったりする。
ところが本物の高級品というのは違う。ロレックスやルイ・ヴィトン、そしてロールスロイスやフェラーリを見ても、消費者の好みはあまり考えていない。作る側が妥協せず、いい材料を使って『本物』を作るのだ。
その換わり、その商品の出来が悪く、お金持ちが支持しなければ見事な失敗に終わる。NSXは、日本車初の『本物へのトライ』だと思う。性能だけなら半額で買えるGT−Rと同じ。カッコだって三菱GTOとそう変わらない。ユーザーが認めなければ何の価値もないのだ。果してNSXはどうだろうか?
まずはスタイルから説明しよう。全長は****oで、全幅は****o。これはNSXのライバルであるフェラーリ328より一回り大きく、新しい348とはほぼ同じ(348は****oと****o)。実際に見た感じでもNSXはフェラーリに引けをとらないくらい堂々とした雰囲気が出ている。
スタイリングはフェラーリと同類。すでにフェラーリびいきのイタリアン・ジャーナリストからは「プアマンズ・フェラーリ」(貧乏人のフェラーリ)と悪口といわれているようだ。
確かにイメージは似てはいるけど、細部はフェラーリと相当違う。例えばルーフからリアスポイラーへのラインはNSX独特のもの。シリ切れトンボの348と違い、リアのボリュームも圧倒的に大きい。
ちなみに個人的にはこのスタイルを非常に気に入っている。なかでも全体のラインのソフトさは、やっぱり日本的な味ではなかろうか。黒以外のカラーリングだと、黒いルーフだけはやや違和感があるものの、スタイルは文句無し!
車重は当初より少々重くなった。でもサイズを考えると充分軽い1365sに収まっている。348が****sもあることを思えば、素晴らしいデキ。コストアップに妥協せず総アルミボディにした効果はハッキリ出ている。技術者によると、普通の鉄板を使ってNSXを作ると、200sは重くなるそうだ。
ただしアルミボディはクラッシュした時や、凹ませた場合の板金ができないという弱点を持つ。これがアルミ最大のデメリットかもしれない。
NSXはさすがに日本のメーカーだけあって、こういったこともしっかり考えてある。フェンダーといった外板パーツはすべてボルト・オンになっていて、簡単に交換が可能。しかもパーツ代も鉄の板金の50%増しくらいに押さえるという。これなら安心だ。
サビに関しても、アルミで作ったアコードやシビック(!)を世界で最もサビやすいといわれる地域に持込み、テストをしたそうだ。うーん! 気合いが入っているではないか!ホイールはスポーツカーの定番ともいえる鍛造のアルミ。ポルシェ959以来流行している5本スポークタイプである。
タイアは標準がヨコハマで、サイズはフロントが205/50R16Z。リア225/50R16Zと、案外細い。
足回りはホンダお得意の前後共Wウィッシュボーン。凄いのはアーム類がすべてアルミだという点だ。日産もアルミのアッパーアームは使用しているけれど、NSXのように徹底してはいない。
アルミのアームを使うと路面への追従性が大幅に向上するため、ハンドリングレベルは確実に高くなるメリットがある。
また、フロントサスは非常に凝っている。ガッチリしたフレームに長いアームが取り付けられ、どんな状況になっても最良のグリップを発揮するようにセッティングされている。
機能で目に付くのはABSだろう。NSXはホンダ初の4チャンネル式を採用している。4チャンネルはGT−Rとレガシーが先行しているので、日本で初めてABSを発売したホンダとしても意地を見せたいところ。
そうそう。NSXは案外大きなラゲッジスペースを持つ。リアのトランクもこの手のクルマとしては広く、ゴルフバックは楽々2つ飲み込む。専用の旅行バックも用意されるという(こいつは高いらしい)。
なんといってもF−1史上最強といわれるエンジンを作っているホンダだけに、NSXに投入された技術は素晴らしい! 材質はほとんどレーシングカーに近いものを選び、なかでもコンロッドはチタンを使うなど凝りに凝っている。
エンジンの組立はF−1エンジン同様ほとんど手作業によるそうで、12人のベテランメカニックが1日に2台ずつ組み上げる(したがって日産24台ということになる)。このあたりはフェラーリ並。
最高出力はややオクタン価の低いアメリカ仕様が270馬力。100オクタンが指定される日本仕様は280馬力。シェルのハイオクは98オクタンなので、これを使うと少々馬力が落ちるかもしれない。
感心するのはNAである点である。今まで発表されている280馬力組はすべてターボ付きだったが、さすがにF−1をやっているホンダならではの実力といったところ。クオリティではフェラーリやポルシェを凌ぐものがありそう。
エンジン型式はV型6気筒ということで、一部のマニアからは「スポーツカーらしくない」という声も出ている。しかしコンパクト&軽量という大きなメリットを考えると、やっぱりV型6気筒の採用は悪くない。
フェラーリになくてNSXにあるのがAT。ごく普通のガングリップタイプのセレクターなのにはガッカリしたが(ポルシェのティプトロニックのような新式ATだとよかった)、ATファンには有難いだろう。
また、インテグラでは最低だったATとV−TECのマッチングも、NSXでは最高出力を26*馬力に下げ、中速域のトルクを増やそうとしている。結果は試乗レポートを読んで欲しい。
次はインテリア&装備について紹介しよう。発表されたNSXのグレードは一つだけ。しかし装備表を見ると、エアバックから始まり、エアコン、本革内装、BOSEの高級オーディオ(音はアメリカンチューンで、低音と高音が強調されるセッティング)等ほぼすべてが標準で付いて来る。
したがって不満はまったくない。オプションで必要と思われるのはCDチェンジャーくらいのものだろう。
内装のカラーは基本的にブラック。希望するとシート部分だけホワイトレザーのタイプも選ぶことが可能だ。輸出仕様では盗難防止のためのアラームが装備されていたが、日本仕様にはつかない。これは残念。
AT仕様には電動パワステが付く。やはりATを選ぶユーザーは体力がないという読みのようだ。これは妥当な選択かもしれないが、操舵感は圧倒的に付いていない方がよかった。
その他、トラクションコントロールも標準装備(スイッチで機能を止めることも出来る)。
シートに座ってみると、さすがにスポーツカー。普通のクルマより着座位置がグッと低く、気分はいきなり盛り上がる。ポジションにはまったく無理がないので、誰でも快適に過ごせるふだろう。
さすがに日本車で小物を置くスペースがけっこう多く、実用性も高そうだ。さぁ、いよいよ走ってみよう!
用意された1台目の試乗車はマニュアル仕様。前にも書いたように、あまり期待せずギアをローにシフト。フェアレディZくらいの気分でクラッチをミートした、と思って欲しい。すると、だ! 想像してたよりはるかに速いじゃないの!
高速周回路に進入し、アクセルを床まで踏み込むと1速はあっというまにレッドゾーンに飛び込む。あわてて2速にシフトするが、それも数秒でレッドゾーンだ。
おおげさに思えるかもしれないけれど、0〜100kmまでは5秒ちょい。したがって1速は3秒強で吹けきり(100kmは2速に入ってすぐ到達する)、2速も5秒程度しかもたない。
しかも加速の時に発するサウンドは「クォーン!」というなかなか結構なもの。高回転まで引っ張った時の振動も皆無で、これなら8気筒や10気筒でなくったって充分満足出来る。
そんなワケで乗って30秒もすると、すっかりこのクルマにまいってしまったのだった(ちなみにこの時点でメーターを見ると、200kmを軽く超えていた)。最高速は270kmをマークするというが、NSXなら問題なくクリアするだろう。
ハンドリングは非常にレベルが高く、レーシングカーに近い味付けといっていいかもしれない。今回はタイトなコーナーが連続するテストコースだったため本当の実力は試せなかったものの、CP(専門用語でコーナリング限界にこと)は驚異的に高かった。
したがってテールが流れ出すと、その時点での速度が速い分コントロールはやや難しく感じるかもしれない。特に「ちょっと自信がある」といったレベルのドライバーには恐く感じるのではなかろうか。ま、ハンドリングについて詳しく紹介するのは、公道での試乗をすませてからにしよう。
次に乗ったのはAT仕様。こいつも期待していたよりはるかに速い! あっというまに200kmを超えるのはもちろんのこと、追越し加速だってマニュアルと比べ遜色はなかった。クルマを操る楽しさは少ないものの、楽にスポーツカーに乗りたいなら悪くはない。
国沢/昨年、開発中のNSXに試乗する機会がありましたけれど、あれから信じられないくらい完成度が高くなりましたね。
「一つはエンジンでしょう。シカゴショーで発表した時のエンジンは、レジェンドの2700ccをベースにしたものでした。相当頑張ってチューンしたのですが、それでもV−TECのように強力なパワーを出すことは出来ませんから」
国沢/8気筒とか10気筒のエンジンは考えなかったのですか?
「当然考えました。V8やV10はもちろんのこと、V6のターボも図面まで引いて検討しましたが、結局どれもデメリットが大きいんですね。V8以上だと重く大きくなりますから、ボディも大きくしないとだめ。すると車重が重くなり、さらに大きな馬力が必要になってしまいます。F−1のエンジンだってパワー的にみるとV12が有利ですが、実際にはコーナーの多いコースだとV8が速かったりしますよね。それと同じ理由です。だからNSXサイズのミッドシップには横置きのV6が最適だという結論に達しました。スポーツカーということを考えるとV12も魅力的ですが、NSXは速さを追究したかったんです」
国沢/ボディなんですか、試作車は剛性に問題がありましたよね。
「あの時点でも計算上は一応フェラーリ328程度の剛性はあったのですけれど、やはり実際に走り込んでみると完全に不足しました。そこで西ドイツのニュルブルックリンクサーキットを走り込み、ドライバーの意見にしたがって補強を一本ずつ入れていったんです。で、最終的にOKが出た数値を計測してみると、フェラーリやポルシェより5割りも剛性が高くなってました」
国沢/やっぱりコンピューター解析より、人のほうが確かですか?
「そうですね。そういった意味でいうと日本で初めてテスターの意見をすべて取入れ、本気でボディを作ったんじゃないかと思ってます」
国沢/確かにボディ剛性の高さは文句ありませんね。日本車じゃないような感じでした。
「昨年プレスの皆さんに試乗していただいた時、さんざん指摘されましたので意地になって取り組みましたから……」
国沢/足回りはやや好みが分かれますね。今日も人によってはリアが滑りやすくて恐いといっていますけれど。
「基本的にコーナリング限界は非常に高いと思います。ニュルブルックリンクのラップタイムは、8分19秒で、これはポルシェやフェラーリより圧倒的に速いデータです」
国沢/確かにウデさえあればNSXは速いと思います。丁寧にステアリングを操作し、セナみたいに微妙なアクセルコントロールをすれば、首が重くなるくらいのコーナリングフォースがかかりますね。
「ミッドシップカーというのは限界が高い代わり、基本的に運転が難しいかもしれません」
国沢/ミッドシップはすうこら速いと思ってはいけない。
「まぁ、公道で限界を試すのは危ないですので、できればサーキットに連れていって欲しいと思います。乗りこなせば絶対満足してもらえるのではないでしょうか」