<S2000タイプV>

「フライバイワイヤ」という飛行機の操縦システムがある。飛行機は離着陸などのため低速で飛んでいる時、舵を一杯動かしたい。しかしマッハに近い高速域になると、一杯動かしたらイッキにバランスを失ってしまう。そこで操縦桿の操作量をコンピューターに伝え、速度によって最適の操舵量を決定する。今回S2000に採用されたSMGもそれと同じ。スポーツカーであれば、なるべくクイックなギアレシオを採用したいところ。レーシングカーって、猛烈にクイック。でも高速走行時に全く気が抜けないクルマになっちゃいます。
 そんなら飛行機みたいなシステムを作ったろうじゃないの! とホンダの技術者は思った。「駐車場での移動や、ヘアピンコーナーなど低速でハンドル切ると、持ち換えることなくフルロックまでタイヤが向きを変える。80q以上の高速走行状態では、従来と同じハンドル切れ角のまま」だったらいいな、ということ。苦節10年(ホントは何年か聞き忘れたけど、まぁ10年くらいらしい)、ついに自動車版のフライバイワイヤが実現したワケ。価格は18万円高。果たしてどんな乗り味のクルマになったか? ワクワクしつつ乗ってみた。



 駐車場を出るべく普通にハンドル45度くらい切って前に出た、と思って欲しい。あらららら! トナリのクルマにぶつかっちゃうぞこりゃ! 慌ててハンドル戻す。確かに凄く切れる!ただ一瞬で慣れるので、以後、低速の移動は楽チン。適度に曲がる一般道や、高速道路を走ってみたが、こいつぁいいです! どんな走行状況でもハンドルを持ち替えずにスイスイ走れる。3分も乗ると、全く違和感なくなったのは意外だった。もちろんヘアピンコーナーもOK。気分はF−1だな。大げさな表現でなく、レーシングカーのようなハンドルの切れ角を味わえる。
 そんじゃ思い切り攻めてみましょう、ということでテストコースに入ってみた。高速コーナーはノーマルと同じハンドルの切れ角なので気持ちよいだけ(タイプVはサスペンションのセッティングが若干マイルドになっている)。でも低速コーナー攻めてみたら、ホメてばかり居られなくなった。例えばヘアピンコーナー。ユックリ走ってればハンドル切れるのだが、速度を上げていくと徐々にハンドル切れる量減る。すると妙なカッコしたハンドルを持ち替えなければならない。丸いハンドルじゃないから大変。ホンキで攻めるなら、ノーマルをプッシュします。



    <ノーマルS2000>

 仕事柄、いろんなタイプのクルマ好きとハナシをする。その中でこのところ最も多い質問が「S2000ってどうなんですか?」というもの。確かに雑誌を見てもS2000の記事はドッサリ掲載されており、ワタシが読者だったとしたら絶対気になってしまう。結論から書いてしまえば、明確に「良いクルマ」である。ただし、欲しいかどうかは別問題。いや、正確に表現すると、欲しいことに間違いない。問題は400万円弱の大枚を投じ自分で買うかどうか、だ。
 もしS2000が好きで好きで仕方ない、というならナニも迷う必要なく買うべき。9千回転からレッドゾーンというレーシングエンジンみたいな高回転型のエンジンは「環境の時代」と言われる21世紀を迎え、最後になると思う。いや、20年後、S2000のエンジンをオーバーホールするヒトは、20年前の技術に感嘆するに違いない。それくらい凄いエンジンである。特に5千回転あたりからレッドゾーンに飛び込むまでのエンジンフィールといったら絶品!



 ハンドリングも高いレベルでまとめらえており、フツウのテクニックじゃタイヤを鳴かせることさえ出来ないだろう。なんせタイヤが鳴く速度ときたら、ベラボウに速い。加えて一般的に限界高いクルマのバアイ、一旦スリップし始めてしまうとコントロールが難しい傾向であるものの、S2000は限界超えた時の挙動穏やか。けっこうコントロール出来る。多少ウデに自信のあるドライバーであれば、もう自由自在に振り回せるに違いない。どんな基準をもってしても「優れたハンドリング」だと評価しちゃう。
 さてさて、FR車ってそんなにいいのだろうか? ここで簡単にFRのレクチャーなどカマしてみたい。FR車のブツリ的な評価だが、ヒジョ〜に残念なことに「アキマヘンなぁ」である。なぜか? クルマのカタチした消しゴムをイメージして欲しい(普通の消しゴムでもいいけど……)。エンピツの先で後ろから押すと、真っ直ぐ進ませるのに苦労するハズ。基本的に不安定なのだ。対してボンネットあたりにツキ刺して前に押してやれば、簡単に直進すると思う。

 サンタのソリも前から引っ張るから安定しているのであって、後ろからトナカイにグイグイ押されようなモンなら、雪道でコースアウトするだろう。ただFRならではのメリットも見逃せない。バランスが悪いということは、曲がりやすいということでもある。さらにサンタのソリを引くトナカイくらいのパワーであればFF優秀理論は完全なモノとなるが、トナカイより強力なクルマのエンジンは、めっちゃパワフル。前で引っ張れば完全にホイールスピン状態だ。
 実際問題としてS2000クラスのボディに250馬力のエンジンを積んだとしたなら、現在の技術をフルに使ったとしてもFFよりFRの方がはるかに曲がりやすく、扱いやすいクルマに仕上がるだろう。ここまで読めば、カンの鋭い読者だと「なるほど、そうなのね!」と解るかもしれない。つまり絶対的なパワーによってFFが有利か、FR有利かが決まってくるのだ。今の技術レベルでは、市販車で車重1トンあたり200馬力程度が境目だと言われる。

 このレベルを超えると、FF車はホイールスピンにより十分な駆動力を伝えることが出来なくなり、下回るとFR車の価値が薄れていく。よって”境目”を超えるFR車だけが正しい存在だと思う。S2000は1250sで250馬力。こらもうFFだと成立しないくらい高い性能なのだった。ただドリフト大好きなドライバーにとってみれば、S2000のトルクじゃ物足りないかも。馬力あるけど、トルクは薄い。アクセル踏むだけで豪快なドリフトに持ち込む、というほどの余裕ないのだ。
 以上、S2000のパフォーマンスを簡単に説明すれば「FFだとホイールスピン大会になってしまうくらい高性能だが、パワーでテールを滑らせるほどじゃない」ということになろう。個人的にはアクセルでテールを流せる豪快なFRが好きである。だからS2000を買わなかった(アルテッツァも同じこと)。逆に「アクセルでテール流すなんて野蛮」と考えるなら、S2000は究極のFRと言ってもよろしい。ベンツやBMW、ポルシェにだって勝ってる。

●主要諸元表

車 種
S2000
全 長 (mm)

4135
全 幅 (mm)

1750
全 高 (mm)

1285
ホイールベース (mm)

2400
車両重量 (kg)

1240
エンジン・タイプ

直列4気筒 DOHC
総排気量 (cc)

1997
最高出力 (ps/rpm)

250/8300
最大トルク (kg-m/rpm)

22.2/7500
パワーウエイトレシオ (kg/ps)

4.96
10・15モード燃費

12.0
価格 (万円)

338.0