最近、日本のクルマはお利口サンになってしまったような気がしてならない。こら明らかにヨーロッパの影響だと思う。最小限のボディサイズで最大限のインテリアスペースを確保する、というのが日本やヨーロッパの狭い道にマッチしているし、考え方にも通ずるからだ。ただ景気の良い時のニッポンはアメリカ志向のイケイケ派だった。当時は室内スペース二の次でカッコを優先したクルマ(いわゆる4ドアハードトップ)を続々とデビューさせ、売れ筋となる。しかも絶対的にサイズの小さい日本車で4ドアハードトップ作ると、狭かったなぁ。
 いや、本家アメリカのセダンも驚くくらい室内狭い。アメリカでタクシーに乗ったヒトは、たいていタマゲる。トランクこそデカいが、リアシートときたら「かろうじて足が入る」感じ。背の高い運転手だったりすると、全長5mを超える大きなボディなのに、アコードより狭いレッグスペースしか残らないほど。ま、それでもアメリカ車は相当デカいので、何とか実用に耐える。でも日本のメーカーは1、5リッタークラスのクルマにまで「狭い4ドア車」を作った。さすがにどの車種も売れ行きはヒドかったが……。かくしてスタイル優先の4ドアは激減中。



 ほんじゃカッコの良い4ドアなど不要か、となれば、そんなことない。日本の中にゃスタイリッシュな4ドア車を好むヒトが多いし、だいたい全部の日本車がヨーロッパみたいな優等生になってどうするの? クルマ好きにとってみると「いろんなクルマから選べる」というのがイチバン宇烈士委のだ。各社、売れているモデルを5つしか作らない、となったら寂しいでしょう。かといって日本で作っても台数が売れなければ損をしちゃう。そんなこんなで、日本のメーカーはカッコ優先の4ドア車を廃止する方向で動いているのが現状。
 といった流れに「待った」を掛けようとするのがホンダだったりする。確かに日本だとスタイル優先の4ドアセダンは売れ行き伸び悩む。でもアメリカに行くと、依然としてカッコいいセダンの支持層は分厚い。むしろ効率追求のセダンより「お〜っ! カッコいいぞ! パチパチ!」みたいな車種を好むのだ。ホンダは考えた。だったらカッコいいセダンをアメリカで作り、そいつを世界中の「カッコいいセダン好き」に売ろうと。その第一弾がインスパイア/セイバーだと思ってよろしい。日本やヨーロッパで作れないカッコを実現しようというのがイイねぇ。

 写真を見ていただきたい。低いフロントエンドから、なだらかにキャビンまで達するボンネットライン。長いトランク。傾斜のキツいフロントウィンドゥと、コンパクトで低いキャビン。久々にバランスの良いスタイルだ。さすがアメリカンデザイン、セコセコしたブブンがない。リアの排気管2本出しあたりも、アメリカンである。「クルマとは実用性を重視すべきだ」という理論を持っているヒトだと「いまさらスタイルだって?」だろうが、ワタシは好き。自分とヨメさん乗るくらいなら、ガツガツ実用性を重視しなくたっていいもの。
 インテリアも気に入った。試乗車は革張り。アメリカ製の革を使うので、ヨーロッパ車よりふんわりしてる。なぜかアメリカの革、とってもソフトなのだ。しかもバンバン使う。ハンドルにだって惜しげもなく使う。薄い革を伸ばして使う、でなく厚い革をシワだらけのまま使うのがアメリカンだなぁ。嬉しいのは耐久性。アメリカ車に使われている革は耐久性に欠け、6〜7年使っているとヒビ割れてしまうけど、日本のメーカーが使う革は持ちも良い。明るいデザインと合わせ、座った瞬間に「安くても350万円くらいか?」の高級感。



 搭載されるエンジンはアメリカで開発された新世代の3リッターV6(日本だとオデッセイのV6に搭載されている)をベースとし、3、2リッターに排気量アップしたタイプ。他のページで説明されていると思うが、新しいインスパイア/セーバーはエンジンを普通のFFと同じく横置きしている。今までは後輪駆動車のように縦置きしていたのだ。アメリカの工場に縦置きFFを作るラインが無いため、普通になったワケ。縦置きファンにとっちゃ寂しいかもしれないけど、元々良いFFを作るために選んだレイアウト。横置きで良いクルマが作れればいい。
 では試乗だ。ゲート式になったATのセレクトレバーでD4を選び、アクセルを踏み込む。するとどうだ。凄くスムースでないの! 3、2リッターになったV6は非常にトルクフルでスムース。アクセルを少し開けてやるだけで、スルスル動き出す。車重は1520sと、3、2リッター級のクルマとしちゃ軽い。ジェントルに走ろうとすれば、もうアクセル3ミリくらい動かすだけでコトは足りる(ちょっと大ゲサ)。試しにガッパリ踏んでみたら、今度は速い! エンジンの軽いウナリと共に、轟然とダッシュ。ほとんどスポーティカーみたいな動力性能だ。

 インスパイア/セーバー用3、2リッターのベースになった3リッターも、素晴らしいエンジンである。低回転域から太いトルクを発生。そのまんまのパワーがず〜っとトップエンドまで続く。気に入るのがエンジンの音質。アクセルを普通に踏んでいる限り静か。深く踏むと、それなりの力強さを感じさせる音質に変わる。吸気音や爆発圧力による変化なのだろうけど、BMWのエンジンってこんな感じ。ホンダもBMWもエンジン音を意識して作ったんじゃないのだろう。でも結果的にキモチ良いエンジン特有のフィールになった。
 3、2リッターになり、もっと進化している。3リッターとイチバン違うのがトルク。3リッターは多少車重の軽いアコードに搭載されていることもあり、インスパイア/セーバーとパワーウェイトレシオなどは変わらないハズ。本来なら同じくらいの走りでいい。でも乗ると明らかに3、2リッター速いのだ。アコードが「ぐぉ!」と加速するなら、インスパイア/セーバーは「ぐぉぉ!」といった感じ。タイムを計ればキチンと速いと思う。エンジンの開発が進んだのだろうか。アクセルを踏み込んだときの音質も、一段とキモチいい。



 調べてみたら低回転時は2本ある吸気バルブのうち、1本を休止。これで強いスワール(空気の渦)作って、効率的な燃焼を狙う。その方がスロットルレスポンスや、トルク特性がいい。聞いてみたら燃費向上効果大とのこと。このあたりはVTECエンジンの得意技。アイドリングより少し高い千回転時で、もはや24sm(2、5リッターエンジンの最大トルクとイーブン)ものチカラを出す。カタログデータと試乗したイメージとピッタリ重なる。ガソリンはアメリカ仕様と共通なのでハイオク指定となるが、レギュラー入れても壊れない。
 テストコースを用意してあったので、ちょいと攻めてみた。D4レンジのまま右方向にセレクトレバーを横移動させると、Sマチックと呼ばれるマニュアルモードに切り替わる。このモード、単にマニュアル操作が出来るだけでなく、変速に掛かる時間まで短い。つまりD4レンジだとスムースさを優先させユッタリと変速し、マニュアルモードは多少ショックが出るも、クイックにギアを変える。試してみたが、ホントに瞬時。1速から2速へのシフトアップのバアイ、0、7秒とか。マニュアルミッション車に匹敵する速さ、といってもよかろう。

 そのまま調子に乗ってテストコースを走る。マニュアルモードだと変速ショックが大きいと説明されたけれど、ガンガン走っているときは全く気にならなかった。ハードブレーキング中にダウンしても、ブレーキによる前後G大きいし、立ち上がり加速だって、もっと変速ショックが大きくていいと思うほど。ガンガン走っているときは荒っぽくて全然かまわない。むしろショック大きくても歓迎する。ちなみに一般道をD4レンジで走っているときは、めっちゃスムース。ホンダ車の中で最も滑らかな変速だと思う。今後はインスパイア/セーバーが基準か?
 テストコースではハンドリングも入念にチェック。個人的に感心したのがボディ剛性。資料を見ると前モデルより70〜80%の剛性アップを果たした、とあった。その数値が妥当なモノかは不明ながら、全く違う次元にあることは間違いない。他のページでベンツなどと乗り比べているが、ドイツ車と比べたって負けていない、というか勝っている。おそらくオフセット衝突に対する衝突安全性を向上させた結果だと思う。どんなにインの縁石を攻めても(ガツンと思い切り乗り上げる、という意味)、ボディはミシリとも言わない。



 もっと解るのが一般道。今回、アメリカホンダは、猛烈な試乗コースを設定していた。「おいおい日本にはこんなヒドイ道ないよ!」というような路面状況で、いわゆるアメリカのフリーウェイと全くイメージ違う。写真を見て欲しい。ここなどまだ上の上。ルートの半分くらいは、路面いたるところに舗装のつぎはぎがあり、さらに10%くらいが80qで走るとサスペンション底付きする凸凹あり。別に旧型の悪口を書く気はないのだけれど、ここを走ったらハンドル操作忙しいと思います。用意されていたライバル車にも乗ったが、まぁ揺れる!
 たぶん、絶対的なサスペンションストロークがあるのと、フルボトムした時のバンプストッパー(ボトムした時にぶつかるゴムの塊)の使い方が上手なんだと思う。加えてフリクションの少ない高品質のダンパーを使っているのが効いてる。どちらかと言えばネコ系の乗り心地(ネコに乗ったことはないがの)。ボーズ・サウンドシステムを大きな音量で掛けつつカントリーロード走ってると、ホント幸せになってしまった。インスパイア/セーバー買ったヒトは、一度北海道みたいにスケールの大きな道、走って欲しい。もっと好きになると思う。
  

  アキュラTL 

 さて『アキュラTL』なるネーミングを付けられた、このクルマの正体はナンざんしょうか? サイズはレジェンドより小さく、アコードより大きい。もう解ったって? そう。インスパイア&セイバーの後継モデルなのである。どうしてアメリカで先行デビューするかと言うと、これまた理由は簡単。アメリカで生産されるからなのだ。初めに経緯をツラツラと紹介してみたい。
 もうすっかり忘れられてしまってるだろうが、現在販売されてるインスパイアはFF縦置きレイアウトという珍しい形式を採用している。その上、V6以外に5気筒などラインナップしているのだ。「他と違うFFを作りたい!」というホンダらしいコンセプトから生まれたのだな。しかし商売の方は初代が成功したのみで、2代目になって絶好調たぁ言い難い。
 一方、アメリカじゃ非常に重要なポジショニングだったりする。ライバルはレクサス300ES/日本名ウィンダムなどがおり「ホンダの高級車販売チャンネルであるアキュラの稼ぎ頭になって欲しい」的な期待を掛けられているそうな。売れれば利益もデカい! こらホンキで開発しなくちゃならんでしょう。かくして次期型インスパイアは、アメリカ主導で開発することになったワケ。


 大変残念ながら、その時点で5気筒の縦置きFFは諦めなければならなかった、と思う。なぜか?一つ目に「生産の都合」が挙げられる。アメリカの工場は縦置きエンジン用ラインを持っていない。ワザワザ新設しようとすると、大幅なコストアップに結びつく。対してアメリカで生産されているアコードV6のラインを使えば、コストを抑えられることに。
 二つ目がエンジン。直列5気筒は基本設計古く(先々代アコードの4気筒と兄弟関係になる)、新しいV6と重さで変わらない。さらにLEVといった厳しい排気ガス規制に対応しようとすると、ヘッドなどまで見直さないとイケナかったろう。つまり時代遅れになりつつあるということだ。5気筒に大金を投入しリニューアルするより、軽くてパワーのあるV6の方がユーザーにも有利か?
 ただホンダの技術者に聞くとアッサリ直列5気筒を諦めたのでなく、S2000といったFR車への転用なども検討したそうな。致命的になったのはFF用エンジンのため、回転方向が逆だという点。これまた全面的な作り直しを意味する。かくしてアキュラTL=新型インスパイアは、アメリカで開発され生産すると決まった時点でFF横置きV6となり、直列5気筒も歴史を閉じることに。