J.フェリーを紹介する時、自動車評論家として絶対に避けられないのは「スタイルをどう評価するか」という点だろう。実際のところボクも同業者達がどう紹介するのか、非常に楽しみだったりする。おそらく「個性的である」とか「空力を意識しない新しいトレンド」などと書かれるのではなかろうか。
 無理もない。デザインの評価は、自動車の評価のなかで最も難しいのだ。女の子の好き嫌いを考えてもらうと理解しやすい。最初は「あんまりよくないね」と思ったのに、時間が経つにしたがってどんどん好きになるケースというのは多いでしょう。自動車も同じ。「よくない」と即座に結論を出すと後でハズレたりする。だからどうしても遠慮した表現になってしまうのだ。



「じゃそういうアンタはどうなんだね?」と聞かれたらどうか。ボクは正直に「カッコ悪いと思う」と答えたい。このクルマ、昨年のモーターショー以後、今回日本で発表されるまで、相当しっかり見てきた(アメリカでは4日間も一緒に過ごしたのだ)。その結果、好みではないという結論に達したのである。なぜか? おそらくJ.フェリーをデザイナーと、ボクの好みが合わないのだろう。
 すでに知っている人も多いと思うけれど、実はこのクルマ、日本だけで売られるのではない。これまでのレパードは、スカイラインみたいに国内専用モデルだった。しかしJ.フェリーはメイン市場がアメリカなのである。
 このあたりの事情についてちょいと説明しとこう。日産はアメリカで二つの販売チャンネルを持っている。一つは従来からの車種を扱うニッサン。ここはサニー、ブルーバード、マキシマ、シルビア、フェアレディZといった幅広い品揃え。もちろんこっちがメインチャンネルだ。

 もう一つは2年前にスタートしたインフィニティ。こっちは高級&スペシャルティなモデルばかりを扱う。これまではQ45を筆頭に、旧型レパード(J30と呼ばれる)、プリメーラ(G20)を販売していた。
 しかしレパードは日本で売られることを前提に開発されたモデル。急に御指名されアメリカで販売されることにはなったものの、もう少し幅広ボディの方がベストである。加えて全体的に古くなってきた。
 そのJ30の後継モデルとして企画されたのが新型J30(日本ではJ.フェリーと呼ばれる)である。したがってメイン市場はアメリカ。スタイルもアメリカで好まれるよう、カリフォルニアのデザインセンター(他のページで詳しく紹介してあると思う)が手掛けた。

 少し詳しく解説すると、アメリカというのは個性の国である。工場でさえ作業服を着ること珍しい。制服というものがあるのは、軍隊とマクドナルドくらいのものといってよろしい(ちょっと大ゲサ)。当然ながらクルマだって目立たないスタイルだと支持されないのである。
 となれば個性的でなくてはならない。特に高級車ほど他とは似ていない独自のスタイルが要求される。J.フェリーの価格帯にもなれば(現地価格は約430万円。驚くことにBMW525iや、ボルボの最高級モデル、フル装備のキャデラックに匹敵する)、完璧にオリジナリティの強いデザインでなくては存在感が出ないとくる!
 だからJ.フェリーのスタイルは今のようになったのだろうけど、これでいいのだと思う。たまたまボクの好みとは合わないだけで、きっと「いいね!」と感じている人もいるのではなかろうか。

 もう一度確認しておく。妙なたとえになるけど、またまたJ.フェリーを女の子だと思って欲しい。女の子には四つのタイプがある。一つは誰が見ても可愛いタイプ。二つ目は、最初に見たときこそ「あんまりよくない」と思うが、だんだん可愛いと思うようになるタイプ。
 三つめは最初に見たときの印象は2番目と同じ。でも根本的に好みが違うから、いつまでたっても好きにならないというもの。そして最後は誰が見てもパス! だ。
 面白いことに2番目と3番目は人によって大きく評価は変わる。例えば太めが好きな人には、いくら愛敬があっても細目はダメだ。その反対もあるだろう。
 J.フェリーはそのあたりに含まれるのだ。つまり最初から限られた人に好かれるようにデザインしたのであって、誰にでもウケるようには考えてしない。だから「カッコ悪いじゃん!」と思う人が多くて当然なのだろう。
 たまたまボクの好みと、J.フェリーをデザインした人の好みが合わなかっただけなんだと思う。
 ずいぶん長いJ.フェリーのデザイン論になってしまった。ようするに「嫌いな人がいてもいいじゃないの」というところから、このクルマはスタートしているのを理解してもらえれば嬉しい。
 これはアメリカンデザインの素晴らしい部分でもあるけど、多くの台数を販売しなくてはならない『ジドウシャ』という機械にとってはややリスク大きいのは事実。「日本のメーカーも、思い切った戦略を取るだけの余力が出てきたんだよう」と判断したい。

 次にアメリカ仕様のJ30を(日本で売られる3リッターモデルとほとんど同じ内容)ロス近郊でタップリ試乗した印象をレポートしてみよう。J.フェリーはまだ公道の試乗会を行っていないから、きっと参考になると思う。
 まずスペックだが、ロスにあるインフィニティのヘッドオフィスで借りたのはJ30tと呼ばれるグレード。これはリアにコンパクトなスポイラーを持つスポーティバージョンだという。ドアを開けると内装は素晴らしいではないか!
 ウッドパネルと革を多用したインテリアは非常に高級感があり、このクルマのベースとなったセドリックをはるかに超える。特に革は質感、色、タッチ共に素晴らしく、日本車ではトップクラスのフィニッシュ。内装を手掛けたデザイナーの力量はたいしたものだ。
 コクピットに座っても快適さは続く。適度に包み込まれる形状のシートを始め、ステアリング、シフトノブの手触りといったものまで入念に考えられている。キャデラックより高いだけに、この味付けは相当苦労した思われる。


 それではスタートだ。インフィニティ・ディビジョンの駐車場から出て3分も走るとフルーウェイの入口。挨拶変わりにDレンジのままフルスロットル、である! すると想像していた以上に元気ではないか。
 1速はエンジンフィールもわからないくらいの短時間で伸びきって、2速へ。2速はレッドゾーンに飛び込むまでもう少し時間はかかるものの、やっぱり周囲の交通状況を判断している内に伸びきってしまった。3速に入って、やっと落ち着いた加速体勢に入る。
 このエンジン、基本的にはフェアレディZのノンターボ車に搭載されているタイプと同じ。個人的に馴染みのあることもあって(昨年アメリカでフェアレディZに乗ってレースをやったのだ)、けっこう好きなフィールである。特に4千回転くらいから7千回転くらいまで続く息の長い加速はノンターボエンジンらしく実に素直。車速もぐいぐい上がり、気分よろしい。



 もちろんターボじゃないから、パンチのある動力性能とはいえない。でもスポーティなセダンとしては必要にして充分なパワーだと思う。最高速もメーター読みで200q+αまで出た。
 ハンドリングはどうか? こいつは最近の日産車らしく非常に素直であった。ワインディングロードを攻めると限界まではほとんどオン・ザ・レールといった感じで、ハンドルを切るだけ曲がる。しかもコーナリング速度は相当なものだから、たいていのユーザーは公道で限界を知ることはないと思う。
 でもそんなことじゃ自動車評論家としては失格。仕方なく限界を超えることにした(ボクの場合は好んで超えるという、といった方が正しいかもしれない)。するとやっぱり最新の日産車らしく奥は深い。簡単に言うと限界を超えた後はアンダーステアからオーバーになってテールがズルリといく典型的なFRの特性を見せるのだが、挙動はマイルド。

 コーナーで徐々にスピードをアップすると、少しずつアンダーステアが強くなっていく。その時点でスピードを一定にすれば、何事もなくコーナーをクリア可能。ここからさらにアクセルを開けるとどうか? 出来の悪いFR車なら大アンダーステアになるか、いきなりリアがズルッとくる。
 J.フェリーはどうかというと、速度を上げると緩やかにリアが流れ始め、きれいなテールスライドに移行。この時のコントロール性は抜群によく、このクラスのセダンとしては拍手したくなるようなカウンター走りが出来てしまう。
 高級サルーンとして大切な肝心の乗り心地も良好。この点はセドリック譲りなのだろうか、一般道をクルージングしたときの静粛性も抜群であった。シャシーに関する限り、ほぼ満点に近い完成度を持つといってもいい過ぎではない。ハンドルを握っていて楽しいのだ。

 そうそう。書き遅れたことが一つあった。それは安全性に対する細かい配慮。J.フェリーの安全装備は日産の最新スペックだという。例えばエアバック。運転席と助手席に装備されるのは珍しくないものの、作りが凝っている。普通のエアバックの形状は、丸い風船。しかし丸いだけだと、爆発した瞬間は顔面に大きな衝撃を受ける。
 日産は違う。エアバックの紹介をしているページを見て頂ければ解るように、丸くは膨らまない。ちゃんとパラシュートのように糸を付けているため、顔面にパンチを食うことはないのだ。
 クルマが止まった状態でエアバックが作動した、と考えて欲しい。普通のエアバックはドライバーの顔面に「パチン!」と当たる。実際にテストした人に聞くと、メガネが5mも飛び、その後顔は腫れてしまったという。
 日産のように糸でエアバックの形状をコントロールしていれば、そんなことはない。より人にやさしいエアバックを目指したというけれど、こういった部分で手を抜かないのが日産の魅力だと思う。その他、クラッシュテストは入念に行っているということだから、安全性に関して言えば日本車のトップクラスにあるといってよかろう。



さて、この変わったスタイルをした高級車をどう評価したらいいだろう? ロスで4日間つき合って感じたことは”気持ち良さ”だった。乗り心地を始め、取り回しのよさ、ハンドリング、エンジン、どれをとっても快適なのだ。きっとこのクルマを買った人は、相当満足するに違いない。
 ちなみにアメリカでの評価は非常にいいという。価格が高いこともあって爆発的に売れるということはないけれど、日産の予想より調子はいいとのこと。インフィニティ・ディビジョンの顧客は比較的お金持ちということもあってか、内装を気に入った奥さんが即決するケースも多いという。
 参考までに書いておくと、ハンドリングのバランスは圧倒的に3リッターエンジンの方が上。コーナーの走りを楽しみたいなら、絶対に3リッターをすすめる。パンチのある走りやスムースでトルクフルなエンジンを好むならV型8気筒もいいと思うが、コストパフォーマンスの点でもJ.フェリーは3リッターがベストではなかろうか。