世の中で高級車と呼ばれているもののなかには、それぞれ明確な個性があるものだ。例えばベンツは、A点からB点に移動する場合の速さと快適性、安全性は文句なく世界一だし、BMWは、大型の高級車としては信じられないほど素直で楽しいハンドリングを持っている。ジャガーなども、走りの面で言えばたいしたことはないけど、趣味の良さでこれを凌ぐものはめったにないと思う。
ではインフィニティの狙いはなんだろう? これはズバリいってBMWを凌ぐ”走りの味”である。実は素晴らしいといわれるBMWの7シリーズにも大きな弱点がある。それがエンジンだ。BMWはあまり大きなメーカーではないから、数多くのエンジンを開発することができない。だから7シリーズに搭載されるエンジンは、軽いけれどパワーがないか、パワーはあるけど思いかのどちらかになる。
具体的にいうと、735は6気筒の軽いエンジンを持ち、ハンドリングは確かに素晴らしい。ところとてもではないがパワーでテールを振り回す走りなどできない。
750になるとエンジンは12気筒となってのパワフルなものの、今度はエンジンが重くなってクルマのバランスが崩れる。楽しいハンドリングではないワケ。
その点インフィニティは軽量のV型8気筒をを採用。重量バランスを考えた上で、パワーを出来る限り追究したのだ。インフィニティに搭載されるエンジンは280馬力で、これは750と20馬力しか違わないデータ。日産は本気でBMWを凌ぐことを目標としているのだ。
試乗は日産のテストコースで行った。最初は高速周回路での高速巡航。走りだしていきなり250キロのハイスピードランとなったが、これだけ出しても安定性にはなんの不安材料もなく実に快適。200キロを超えるスピードでバンクになっていないコーナーに突っ込んでみたが、大型車につきもののグラッとくる不安感はゼロ。BMWやベンツにも勝る安定感だ。
公道で試したわけではないけれど、アウトバーンにでも持って行けば、最強と言われるBMW750と高速コーナーが連続する場所で勝負をしても軽々引き離せそうだ。
試乗時間の後半は100キロ少々のクルージングをしてみた。このくらいのスピードはインフィニティにとってみれば、持てる実力の100分の1という感じ。高速道路で”物”が落ちていた時を想定した急ハンドルや急制動をしても姿勢はまったく崩れず、余裕を見せる。この当りが真の高性能車のありがたいところだろう。
乗り心地は相当高レベル。ライバルとなるセルシオと比較しても優劣つけがたい静粛性を持ち、細かい振動も皆無に近い。走行中、最も気になるのはエアコンの吹き出し音というくらいである。
インフィニティの本当の良さが現れたのはハンドリングコースを走ったとき。ここは公道を想定したもので、箱根のような道幅と曲がり具合いになっている。もちろん高速周回路でハンリングが良さそうなことはわかっていはいたが、予想をはるかに超えたものだった。なにしろスカイラインのGTSより楽しいのだ。
コースインして最初の1周目から全開。余りの楽しさにすべてのコーナーでブレーキを使いながらテールを滑らせて進入し、パワースライドで立ち上がるという走りをしてしまったほどよく走る。
インフィニティと比べるとBMWの7シリーズはレベルが違うという感じ。同じコースで735や750を走らせると、Q45にはまったく追い付けないだろう。
何より凄いのはボディは全長5mをオーバーし、重さも満タンにして人が乗ると2トン近いと言うのに、それをまったく感じさせない点。
これを実現するにはボディ剛性も高くないといけないし、なにより足回りのセッティングが難しいと思う。そういった意味でいうと、インフィニティは間違いなく世界トップの走りの実力を持ったのではないだろうか?
Q45がヨーロッパで市販され出したら、真っ先に被害を受けるのはベンツやBMWのオーナーだと思う。おそらくインフィニティを買ったオーナー達は彼らを追いつめるのを喜びと感じるだろうから……。
インフィニティに搭載されるエンジンは実に強力だ。V型8気筒4バルブDOHCの4494ccから、280PSものパワーを発揮している。これは前述のように、BMW750の300馬力にわずか20PSかけるだけ。
最高速240kmをマークするベンツ560の5547cc(279PS)とほど同等のパワーだ。しかも280PSというのはかなり余裕を持たせたデータだそうで、その気になれば300PSも不可能ではないという。
そういわれてみるとQ45のエンジンは丈夫そうで、カムの駆動も信頼性を重視した結果チェーンを採用している。最近はカムの駆動にコッグドベルトを使うことが多いけれど、やはり信頼性ということに関してはチェーンの方が圧倒的に優れているようだ。事実ベルト切れによるトラブルはまったく減っていない。
では試乗に移ろう。Q45への御挨拶を兼ねて左足でブレーキを掛けつつアクセルを全開にしてみた。するとハイパワーだった頃のアメリカ車のように後輪はパワーに負けてホイールスピン開始! さすがに凄いパワーである。
タイアが白煙を上げる前にブレーキをリリースしてやると、伸ばしたゴムを離すような感じを伴い加速開始。
そのままグングンスピードは上がっていき、200キロはスタートして30秒くらい後にいともたやすく超えた。結局高速周回路を1周すると、アメリカ仕様のスピードメーターは160マイル(約260キロ)に届いてしまったのだ。
これはライバルのセルシオより10キロほど速い実力。おそらくアウトバーンで走らせれば、追風、下り坂の好条件だとメーター読みで軽く280キロにも達するだろう。
260キロ時の回転数は 程度だったが、この回転数でも振動はほとんどないくらいバランスがよく、連続して走行しても心理的ストレスがまったくなかった。もちろんベンツやBMWといった高性能車にだって勝てるデータを持つばかりか、連続高速クルージングでもライバルに勝る快適性を確保できていると思う。
それ以上に感動したのは、ハンドリングコースを攻めたときのパワフルさ。2速でクリア通過するようなコーナーの途中からパワーを掛けると、80キロくらいのスピードからでもたやすくパワードリフトに移れるのだ。ターボのように、一定の回転数からドーンとパワーが出るのではなく、全域でフラットなトルクを発生する大排気量のノンターボエンジンはやっぱり気分がいい。
最後はインテリアについて紹介したい。スペースはさすがに大きいボディサイズを持つということで、広い。とはいっても1BOXカーのように”広大”というのではなく、常識的な範囲でゆったりしている。後席の居住性は相当なもので、ショーファードリブン(おかかえ運転手を雇って後席に座るような使い方)のユーザーでも満足できると思う。
操作系で特徴的なのはシフトレバー。国産車では初めてベンツのようにゲージが付けられた。慣れればやはりゲージが付いている方がスポーティドライブには似合う。
普通のシフトレバーは目で確認しないと、マニュアルで動かすときには何速に入っているのか解らないけれど、ゲージが付いていれば手の感覚でシフトできるのだ。
あまり関係ない話だろうがこのクルマ、おそらく筑波サーキットに持ち込んで走ってみても相当速いに違いない。きっと1分14秒台も不可能ではなさそう。
オーディオは標準装備のものでも音質はよく、相当音にうるさい人では後付け品に交換したいとは思わないだろう。
非常に良くできているQ45で唯一の不満は細かいところの作り。サンバイザーを下げるとバニティミラー用の配線が見えたりするのだ(これはすぐに直されると思う)。外観もオプションで用意されるリアスポイラーを装着すると、頼りない感じがするリアにボリュームが出て全体のバランスが取れる。残念ながら用意された試乗車にはなかったが、Q45を買うならこいつをつけたいところ。
インフィニティは日産が主張するように、確かに新しい価値観を持っている高級車だと思う。そういった意味ではセルシオとの比較も、どちらがいいとは結論がでない。でもインフィニティには、ハンドルを握っていてコーナーが見えたとき、心が踊るという楽しさがある。