日産が全ての乗用車にエアバックを標準装備するという大英断を下したのは知っていると思う。ギョーカイに与えたインパクトは大きく、トヨタとホンダも慌てて標準装備化を打ち出したホドだ。早くから動き始めた日産は、乗用車ラインナップのエアバック装着が完了したため、順次RVをベースとした乗用車にも採用を拡大中。なかでもセレナはエアバックの全車標準装備化に合わせ、簡単なマイナーチェンジを行っているので試乗してみた。
 エンジンや足回り関係の変更は行っていないという説明だったが、走り出してみたら従来型よりピシッとした雰囲気。おそらく今までの広報車(マスコミ向けのテスト車両)は初期生産モデルだったのだろう。作っているうちに生産ラインの工作精度が高くなるため、徐々にクルマの完成度は上がるもの。エンジン回りから出る騒音&振動レベルも何とかガマン出来るレベルに落ちついている。セレナの場合、お世辞にも静かだとは言えなかったのだ。


 エアバックの標準装備化以外の変更点は大きいものが6つ。順に紹介すると1)ボディカラーは全9色のうち、7色を新色とした。2)ABSの価格を*万*千円から*万円に大幅値下げ。3)セカンド回転シートに横向け状態モードを追加。4)断熱ガラスや紫外線カットガラスの採用。5)ディーゼルエンジンが平成6年排出ガス規制適合になった。6)リモコンロックを採用、といった内容。また、カーゴスペースの電源ソケットも全車標準化されている。
 どれも決定的な改良ポイントじゃなさそうだけれど、使い勝手は確実に向上したように思う。特にカラーとガラスの変更は想像してた以上に効果的。どちらかといえば暗いイメージだったセレナがググッとポップになったし、ガラスもスムーク調で質感を増している。個人的には依然として犬のポチみたいなフロントマスクに違和感を覚えてしまうが……。おすすめグレードはフル装備で222万円のFXリオ。オートクロージャーも標準装備される。

    <セレナ>

 他のクルマから乗り換えると、あまりに運転席がタイトなので驚いてしまった。大ゲサに表現すれば、ドライバーの周囲は全てカベになっているのだ。エミーナやオデッセイのような解放的コクピットの対極にある。良く言えばスポーツカーのようなタイトさであり、悪く表現するなら「単に狭い」で片付けられてしまうだろう。
 しかし走り出すと印象がコロリと変わった。ホントにスポーティなのだ。エミーナより車重は200s程度軽いため、取り回しも非常にシャープ。しかもボディがコンパクトに感じるから、クルマは思い通りに動く。ラルゴ同様、ついつい元気な走りになってしまった。こうなると、タイトなコクピットはむしろ好ましいから不思議。
 弱点はエンジン。高回転まで引っ張るとガーガーうるさいし、振動も気になってしまう。50q定速でうるさいのはもちろん、アクセルを開けた時の加速騒音ときたら群を抜くレベル。4WDシステムは日産式に表現するとアテーサ。センターデフ+ビスカスLSDを組み合わせたものだ。今回履いていたタイヤは割とハードな手ごたえを持つミシュランだが、スポーティなセレナとのマッチングは悪くない。


 マルチリンクという凝ったリアサスを採用。フロントもそれに見合ったセッティングをしており、雪道でも急な挙動を起こすことはない。アイスバーン性能に問題を抱えるミシュランでも、滑り始めが手に取るように解るほど。高目の重心や、滑りやすい路面では不利となる堅い足回りなのに、コントロール性は素晴らしいと思う。今回の6台では文句無しにトップのハンドリングである。
 調子いいのに気を良くしてラリー車のように振り回してみた。タックインというテクニックを使うときれいにテールスライド。スライドした後のコントロール性も文句なかった。普通の人でもテールが流れてしまうケースはあるが、このクルマなら修正も簡単だと思う。
 ブレーキングもいいデータを残した。軽い車重も効いているんだろう。30qと50qはベストをマーク。60qからのブレーキング時にABSの空走感が出てしまったけれど、それでも2番目に留まる。踏力をコントロールした時は、グッと短い距離で停止出来た。MZ−01と組み合わせたら最強の雪道用ミニバンになるハズ。もう少しカッコ良くてリーズナブルだったら売れると思う。
 セレナのサイズはミニバンのなかで最もコンパクト。当然、視界も良好だ。データを見れば解るが、後方死角はたった7m20しかない。スペースギアより3m以上近くまで見えることになる。前方死角の2m25も1BOXカーといい勝負で、ハンドルを握った状態で視界の良さを実感出来る。エミーナと同じ車幅と思えないくらい取り回しが良く、このクルマなら初心者だって気軽に運転できると思った。毎日の足にも使えるだろう。
 なぜか日産車のヒーター性能は良くない。セレナの場合、2列目だけグングン温度が上昇。運転席と3列目シートは取り残される感じになってしまった。ま、3列目シートを使わないなら実害もないだろうが(ドライバーは乗員より少し低めの温度が好ましい)、フル乗車となれば問題。2〜3列目は別々の温度コントロールが出来ないのだ。もちろん走行中ならファンスピードを上げ、車内の空気をかき回してやればOK。絶対的な能力も問題なかった。
 車重が15*0sと軽いから、400sのロードを掛けると大きな影響を受けてしまう。例えば坂を登るため2速を選んだとする。アクセルオンの時はいいけれど、戻した瞬間に強力なエンジンブレーキが掛かりスリップを誘発するのだ。3速を使えるくらいエンジンパワーに余裕があれば、アクセルオフした時のエンジブレーキも穏やかで済む。フルパッセンジャーでアイスバーンを走るときは、過大なエンジンブレーキを掛けないこと。
 商用車代わりに使われる1600t以外は、全てイエローフォグとコーナリングライトを標準装備する。ライティング能力は平均レベル。今や暗いライトの日本車など無くなったと思う。3列目シートを畳んで重い荷物を積載すると、やや上向き気味になる。このタイプのクルマは欧州車のように調整式ライトを許可してもいいのではなかろうか? 運輸省のおかげで大いに危険な思いをしなければならない。
 室内照明は超貧弱。前席スポットライト付きは最上級グレードだけで、他はドライバーの頭上と2列目シートの頭上に貧弱な丸い白熱灯が付くのみ。非常に悲しい状態だ。しくしく。絶対に後付けライトを付けたい。

 全長が短い割には頑張ったラゲッジスペースを確保している。フル乗車時に残る奥行きはスペースギアと4pしか違わない。グレードによっては2列目シートも折り畳めるので相当の大物を積載することが可能。このスペース、オートキャンプではベットにも変身する。意外かもしれないが、2列目を畳めるミニバンはないのだ。ルーフ上はスキーキャリアが精いっぱい。ルーフボックスを付けても、中身の出し入れにはハシゴを必要とする。

 2000tでコンパクトなセレナなのに、価格は2400tのエミーナと同じ。加えて燃費や小回り性能もいい勝負なのだ。乗れば非常に楽しいクルマであることを実感出来るものの(ユーザーの満足度調査ではいいデータを残している)、ラルゴと同じように訴求力は薄い。間もなく行われるマイナーチェンジでどう変わるかが楽しみ。きっとライバルに対抗するための秘密兵器を投入してくるだろう。それまで待つのが正解である。