「ニュルブルックリンクで仕上げたクルマがエラい!」と思っているヒトって多いんじゃなかろうか。ワタシはこの意見に賛同できない。以下、理由など説明しよう。例えばオリンピックの中に『走る』という競技がいくつかある。なのにマラソンの選手と100mの選手は、体つきが全然違うので驚く。おそらく100mの選手の体つきだと、長距離走ることが出来ないのだろう。逆にマラソン選手は、100mで速くない。
ちょうどいいのは、サッカー選手のような体つきだと言われる。確かに1時間半に渡り過激な運動をし、ダッシュ力も要求される。サッカーの選手は、どんなスポーツやってもイケるそうな。クルマも同じ。ニュルブルックリンクというのは、すごく特殊なコース。公道じゃ全く考えられないような激しい上下方向の入力(フルボトムしたあと、荷重ゼロになるとか)や、全開で飛び込む200km以上のコーナーなどある。
したがってココ走って最高のクルマを作ってしまうと、てんでいけません! 具体的に言えば、超高速域でのスタビリティを確保しなければならないため(逆に考えるなら、高速域での挙動さえしっかりさせればタイムは縮まる)、一般道での楽しさを失ってしまうのだ。スカイラインR33のアクティブLSD付きはニュルで開発したと言われるが、低速コーナーでテール流れず面白味に欠けるセッティングだったでしょ?
NSXの初期型もそうだった。これまた低速コーナーのワクワク感を持っていない。でもニュルに憧れるキモチは解る! 初めて行ったら、誰でもタマげちゃいますぜ。マラソンしか知らないヒトが100m走見たようなもんだから。ここを10年前の日本車で走らせたら、見るも無惨だったに違いない。そいつをジャーナリストは派手に書きすぎたのだな。だからニュルが神話みたいになっちゃったんだと思う。
よく「1ラップ全開で走りきれるブレーキは日本車に無い」と言われるが、そんなの当たり前だ。全長22km程度あって、こいつぁ筑波サーキット11周分。持たせようとすれば、もはやレーシングカーと同じブレーキじゃないとダメ。激しい上下方向の挙動も、日本にゃそんなテストコースなかったんだから仕方ない。ニュル走ってショックを受けた日本のメーカーは、慌てて対応する。ホンダと日産と北海道にニュル作ったもん。
以来10年。新しいSTiバージョンに乗り「日本車も逞しくなったなぁ!」と感慨しきり。このクルマ、別にニュルで開発したワケでない。でも「WRCを走るならこのくらいのボディ剛性は必要だろうな」と設計陣が考え、テストトドライバーは「もっとタフなブレーキでないと世界に通用しない!」など自分で目標値を設定し、作り上げたのだ。そいつがニュルで通用するレベルになっている。
ブレーキ一つ取っても進歩は顕著。200km以上の速度からブレーキを掛けるポイントがいくつかある。時にはフルブレーキングだし、時にはジンワリと踏むブレーキだ。ここで従来の日本車だと、コントロールしにくかった。ブレーキの構造を思い浮かべて欲しい。ペダル踏むとマスターシリンダーで圧力上げられたブレーキ液がホース通ってキャリパーに届き、パッドを押す。
そしてタイヤは路面に食いつき、サスペンション&ボディをゆがめ、ブッシュに激しい力が掛かる。この間、左右のブレーキ系統で少しでもタイムラグや利きの違いあれば、微妙にバランスを崩す。ドライバーのセンサーは敏感だから、それが不安定要素となり、ブレーキを全面的に信用できなくなってしまう。熱などでフィールが悪くなっても同じ。ドライバーは常に安定したブレーキのタッチと利き味を望むのだ。
新型インプレッサに乗ると、そのあたりがキチンと出来ているのに驚かされる。220kmくらいからドカンとブレーキ踏んでも左右のバランス崩すことなく相応の制動力が立ち上がるし、横G掛けながらブレーキングしても片側だけ急に制動感変わるようなこともない。文字にすれば「意のままにコントロール出来るブレーキ」ということになろう。もちろん大型化されたローターは、フェードしないだけのブレーキ容量を持つ。
言い方を変えれば「しっかりしたクルマならニュル走っても通用する」のだ。ポルシェの誰かが「我々はニュルでセッティングしない。でもニュルを走らせる、評価することは非常に重要だ」と言っていたのを思い出す。10年前はナニがいいたいのか解らなかったけれど、今になってみるとよ〜く解る。ニュルを思い切り走って楽しければいいのだ。新型のSTiバージョンはどうか?
めちゃ楽しいです! 残念ながらコーナー一つずつ全開で攻めるくらいの乗り方だけど(タイム出そうとすると、常に3つくらい先のコーナーがアタマに入ってないとダメ)、それだって3速や4速全開の区間多い。気に入ったのが、町をかすめる区間。4速全開で下ってきて、右に曲がりながら3速。そして直線的に強くブレーキングし2速に。左右のエスケープゾーンはほぼ無し。
下りきったトコロから急に登りとなり右ターンするのだが、恐ろしく速い! 17インチのポテンザのグリップは強力で、普通のクルマなら完全に流れ出すような速度域になってもグリップしちゃう。ここ、撮影のため3回通過したのだが、攻めたつもり2回目もグリップしっぱなし。それじゃどうよ! と、レーシングカー乗ったつもりで奥まで突っ込み、登り右コーナー全開! やっとタイヤがスライドする速度になった。
絶対的な排気量少ないため200km以上の高速域で加速が鈍るが、コーナーの速さはポルシェやGT−Rと比べても負けていない。言うまでもなく世界最速の2リッター量産車だと思う。滑らせても楽しい。撮影でWRCドライバーの新井選手と一緒に走ったりもしたけど、この時はフェイント使ってほぼ全部のコーナー横向けっぱなし! 面白いったらない! もっと乗っていたかったよぅ。
ジツは前日、一般道で試乗している。どれどれ、とばかり走り出すと、もはやメチャクチャ速いでないの! 従来型より一回り大きなタービン使っているため、低回転域は250馬力のNBより眠い感じ。でもパワーバンドに入ると「これホントに2リッターなの?」とタマげるくらいトルクあるエンジンに切り替わってしまう。1速とか2速で全開にすると、普通のヒトなら5千回転くらいでアクセル戻しちゃうレベル。
もちろんコントロール出来ないような暴力的パワーでないが、2リッターのスポーツカーとして評価すれば素晴らしい! 車重が従来型より**s重くなっているので、0〜400mなど計測すれば変わらない速さなのかもしれないけど、トルクがミッチリ詰まったような回り方は今までにない感覚である。気に入るのは、普通のペースで走って楽しいこと。アクセル踏まないと楽しくないクルマは、やっぱり子供っぽい。
新しいミッションも、ほとんど文句の付けようがなかった。エンジンにしろミッションにしろ「出来立て」はあまり良くないのが普通。数年掛けて、少しづつ洗練されていく。なのにSTiの新しい6速は、最初から仕上がっている。縦置きエンジンなので設計上有利ということもあるんだろうけど、シャッキリしたタッチ持ち、渋さもない。スバルの主力ミッションになるのだろうが、こらいいです。
STiバージョンに弱点はないのかというと、そうでもない。試乗の途中、雨になった。ヨーロッパの道は雨降ると滑る。だからこそヨーロッパ車はウエットグリップを第一に考えるだ。こういった状況下でSTiバージョン走らせると、もう完全にオーバースペック! ワインディングロード走ってても、パワーバンドに入った途端、滑る滑る。ロール剛性が少し高いのかもしれない。タイヤもドライグリップ重視だと思う。
ま、ハイパワーモデルに共通することだし、雨降った日はアブナイのでゆっくり走ればいいのだけど、可能ならもう少しマイルドだと一段と奥行きの深いクルマになろう。日本の道はヨーロッパほど滑らないから現状でいいとしても、ヨーロッパモデルを開発するときのテーマになるかもしれない。ここまでレーシーなクルマだと、スタビ変えるなど雨用のセッティングが必要か?
さて、新しいSTiバージョンをどう評価したらいいだろうか? ナニを隠そう従来型のSTiバージョンは凄く良いクルマだと思うが、買おうと考えたことありませんでした。でも新型STiバージョンは素直に欲しいと思う。このクルマ、生まれついてのスポーツカーだからかもしれない。つまり普通のセダンが高性能になったのでなく、最初からピュアスポーツカーとして作られた感じ。
スタイルはいかにもスバルらしい『5次元のデザイン』である。すなわち写真見てカッコいいデザインをタテとヨコの2次元だとすれば、実車見て評価上がるのが3次元(立体)。そして4次元とは時間の経過と共に良くなるもの。これスバルの得意ワザ。さらに「乗ったら一段とカッコよく感じる」のが5次元だ。もはやSTiバージョン見てカッコ悪いとは全く思わない。むしろ個性的でいい!
そうそう。STiバージョンには『RA』という競技車両のベースモデルもある。こちらは一段とハードなダンパーを組み合わせておりスパルタン。競技に出ないなら標準スペックの方で十分過ぎるほど過激な足回りだから、考えなくていいと思う。それにしてもポルシェ911に匹敵するスポーツカーが***万*千円で買えるとは……。