アルシオーネSVXを最初に見たのは今年1月に行われたデトロイトショーだったが、このときは正直いってあまりカッコイイとは思わなかった。きっと読者諸兄も、このクルマのスタイルを見て「いい!」とすぐに思うことはないだろう。
ところが、である。その後日本でアメリカ仕様に試乗したり、アメリカで数日間アルシオーネと過ごすと、評価が大幅に変わってきた。見慣れると可愛い、と思い始める女の子のようで、このクルマはなかなか奥行きがあるのだ。デビュー時はあまり騒がれず、時間が経つほど売れ出すというレガシィのような味わいなのかもしれない。以下、ジックリこのクルマを紹介したい。
まずはボディだ。クルマというのは、写真で見るのと実物はけっこうイメージが違うもの。アルシオーネSVXもそいつがあてはまる。おそらくこの本を見てもあまり大きいと思わないかもしれないけど、ボクがこのクルマを見たときの第一印象は「うーん。こいつはけっこう迫力あるなぁ」ということだった。
確かにスペックを見ると大きい。全長は4625o、全幅1770oもあり、これはフェアレディ300ZXの2by2を10pも長くしたようなプロポーション。ディアマンテとはほぼ同じなのだ。
搭載されるエンジンは、カタログデータによれば形式は4バルブDOHC。3318tの水平対向6気筒とある。面白い排気量に感じるかもしれないが、これにはしっかり根拠がある。3318tを6で割って1気筒当りにすれば553t。このピストンで4気筒にすれば2212tになる。これはなんとアメリカ仕様レガシィの水平対向4気筒と同じなのだ。つまり信頼性や耐久性が実証されている従来の4気筒のパーツを多数流用し、2気筒分を加えたものと考えていい。
エンジンを新規開発をするとなると途方もないお金がかかるが、これならいいエンジンを最小のコストで作ることが可能。ただシリンダーヘッドは新設計だ。レガシィ用のヘッドはバルブの挟み角が高回転型となっており、そのままだとアルシオーネが狙ったパワー特性にはならない。そこで燃費や騒音の低下も実現できるよう、まったく新しくしたとのこと。このあたりは開発ストーリーを読んで欲しい。
また、アメリカ仕様の最高出力は230馬力となっているものの、日本仕様はオクタン価の高いガソリンに合わせ、240馬力までパワーアップ(アメリカのハイオクは96オクタン程度しかないのだ)。一部ではターボが追加されるというウワサもあるようだが、これはない。というのも最初から計画にないとのこと。
高速回転域は水平対向6気筒の超得意とするところで、振動はほとんど感じない。テストコースでは180qのクルージングを楽しんだが、法さえ許せばまったくストレスを感じることはなかろう。ちなみにギア比は非常に高く、100qでも2100回転少々(タコメーターでは読み切れない)。したがって高速クルージングでも静かだろう。アクセルワークを丁寧にすれば好燃費も期待できる。
足回りと駆動系はレガシィと非常によく似ている。サスペンションは、フロントがロアアームを持つストラット。リアもデュアルリンク式ストラットの4輪独立懸架。
このサスペンション形式はスポーツカーとして考えれば不満があるものの(やはり限界性能だけを追究すれば、キャンバー変化の少ないマルチリンクやWウィッシュボーンがベストだと思う)、様々な状況を克服しなてはならないロングツアラーとしてはメリットが大きい。
一例がサスペンションのストローク(タイヤが上下する距離)。Wウィッシュボーンやマルチリンクは、サスペンションストロークを長くしようとすると長い上下のアームが必要となり、サスペンション自体が大きくなってしまう。荒れた路面を高速で駆け抜ける時には、ストロークが長くないとダメなのはいうまでもない。そういった見地に立つと、アルシオーネSVXのような全天候性のクルマはストラット式のサスペンションがマッチしていたりするのだ。
ここでストラット式の弱点である『キャンバー変化』という専門用語を説明しておこう。タイヤが100%の性能を発揮するためには、当然ながら路面に対し垂直になってないとダメ(前から見てタイヤの下面がすべて接地している状態。)。ところがコーナーでクルマが傾くとタイヤも傾き、タイヤの接地面が減ってしまう。こうなるとタイヤの性能を発揮するのが困難になるのはいうまでもない。ストラット式はその変化量(これをキャンバー変化という)が大きく、コーナーでフラフラする原因になる。
FRやFFだとこのキャンバー変化が致命的になるため、スポーツカーはキャンバー変化の少ないサス形式を選ぶのだ。ところが許容度の大きい4WDはこの弱点をうまくカバー出来る。実際にアルシオーネSVXはオーバー200qでも(最高速は235qくらい出るという)ほとんど手放しで走れ、コーナーでフラ付くこともなかった。
アルシオーネSVXのグレードは二つ設定されている。どちらもエアコンからアルミホイールまで標準装備で、違いは4WSとABS、クルーズコントロールの有無となる。ABSはコスト高になるものの、その分高度なコントロールを可能とする4チャンネルタイプ。4チャンネルタイプはNSXやGT−Rに採用されているのをみても解る通り、条件が悪くなればなるほど細かい制御を実現できるシステムである。
滑りやすい雪道から舗装路までという広い使用条件では、やっぱりこの方式しかないというのが富士重工の主張。ボクも様々なクルマのABSをテストしてきたが、確かにこの会社のABSはバランスという点ではレガシィを含め最良の性能を持っていると思う。
そしてミッションはATのみ。このあたりまでくるとアルシオーネSVXの狙いが明確になる。富士重工は本気で世界一悪条件に強いスポーティクーペを作ろうと考えているのだ。クルマの3大要素は「走る・曲がる・止まる」である。このクルマは雪道からドライ路面までをトータルすると、世界で最も性能の高いクーペだといって間違いなさそう。前にも触れたが確かに世界の先進国のうち、雪の降る地域は多いし、日本でさえスタッドレス時代になれば関東以北はSVXのようなスポーティカーが便利だろう。
日本では9月18日の発表ということで、アルシオーネSVXを公道で試乗するのは時間的に無理(この本の締切に間に合わない)。ところが面白いことにアメリカでは8月下旬に発売されており、富士重工に問い合わせると試乗できるクルマもあるとのこと。それなら、ということでちょいとアメリカに出かけてみた。
いつもながら長いフライトを終えロス市内のホテルに着くと、すでにSVXはパーキングに止まっていた。カラーは黒。初めて見るカラーバリエーションだが、こいつは案外SVXに似合っている。特に西海岸の青い空にはピッタリといった感じ。
すでにアメリカでは雑誌にSVXの試乗記が出ており、なかなかの評価をもらっている。空港で買ったロード&トラックという雑誌を見ると性能テストをしており、確かに素晴らしいデータ。
例えばスキッドパッドというアメリカならではのテスト項目がある。これは日本で言う定常円旋回。つまりフラットな路面に円を描き、その上をグルグル回りコーナリング能力をチェックするテスト。ここで発生する横Gが大きければ、コーナリングがいいということなのだ。
本格的な試乗に入る前に、日本仕様とアメリカ仕様の差を紹介したい。まず外観だが、これはスポイラーが違うそうだ。アメリカ仕様は写真を見ても解るように、スタイリッシュなスポイラーが付けられる。
このスポイラー、なかなかいいデザインだと思う。日本仕様のアルシオーネSVXと比べてもらえば解ると思うが、明らかにこのスポイラーを付けたほうがスポーティ。日本仕様もオプションで大きなスポイラーが用意されるということだが、果してどんな形か楽しみ。
カラーもアメリカ仕様はモノカラー(一色)がメイン。日本はツートーンが多いそうだが、ボクは黒のモノカラーがSVXに似合うと思う。黒だとSVXのきれいなラインがよく見えるが、ツートーンだとウエストラインのところでクルマのデザインが分断されてしまう感じでもったいない。
後は日本仕様とまったく同じ。アメリカ仕様が写真でカッコよく見えるなら、おそらくカラーリングの違いのせいであろう。日本仕様にもモノカラーはあるので、ボクはそちらをプッシュしたい。
では試乗だ! 最初はアメリカの雑誌で好データを残しているエンジンのチェックをするため、ハイウエーに入る。ここでいつもの通り、全開加速!
するとやっぱり速いじゃないの! 100qまでは6秒少々で到達し、そのままアクセルを踏んでいるとあっけなく200qをオーバー。空力がいいためか、まだまだ加速は続きたくさんq出てしまった。
ヨーロッパ仕様の最高速は235qだそうだが、この数字は確実にマーク出来る、と思う(ボクが出したとはいっていない)。日本で試乗した時は狭いテストコースだったのと、慣らしもしていない新車だったため220qしかマーク出来なかったが、走り込んだテスト車は本当に速い。
それにスピード感がなくなるテストコースと違い、公道だと他車との比較も出来るので実力通りの速さを体感出来るもの。おそらく日本仕様も公道なら充分速いと思う。実力的にはフェアレディ300ZXのノンターボといい勝負かもしれない。
さて、日本とアメリカでアルシオーネSVXにたっぷり試乗したが、このクルマをどう評価したらいいだろう。
まずチェックポイントその1であるスタイルだが、これは慣れると相当気に入ると思う。ボクはいまだに日本仕様のツートーンはいいと思えないが、モノトーンの方はボディが塊に見えてきれい。味けのないフロントグリルも見慣れるとシンプルで好ましく、飽きがこないかもしれない。
その2はインテリア。スペースや快適性は高く、4人でのロングドライブもまったく問題はなさそう。何度も書くが、ダッシュの木目以外は色使いも好感が持てる。
その3はエンジン。日本仕様は高回転で雑音が出ていたものの、アメリカ仕様はクリアなサウンドでパワーもあった。日本仕様は先行試作モデルなので、アメリカ仕様くらいに仕上がっていればまったく問題はないと思う。
その4のハンドリングは高い点を上げていい。フルタイム4WDの、しかも高速ツアラーとしては相当レベルが高いところにある。
という具合いで、このクルマは想像以上によく出来ている。やや地味なスタイルのせいで、見慣れる必要があるのがネックとなりそうだけれど、レガシィ同様序々に評価が高まってくると思う。
ボクの家には幸い駐車スペースがあるので数台のクルマを所有できるが、もし一台に絞れといわれたらアルシオーネSVXは理想に近い存在かもしれない。