「乗れますか?」と言う。乗りますか、の間違いでは無い。の・れ・ま・す・か、だ。確かに狭いぞ! モノコックの中に足を入れるまでは、フォーミュラーカーと同じで、そう苦労しなかった。問題はキャノピー。装着しようとすると、アタマがぶつかっちゃう。「もう少し潜り込んで下さい」というので必死で奥まで入ると、やっとキャノピーは閉まる、しかぁし! どうやって操縦するのこれ? ハンドルは零戦の操縦桿みたいな形状してるのだが(左右にヒネルとタイヤの向きは変わる)、カンペキに急所と干渉してたりして。
 ほとんど手首しか動かない状態。さらにバイクのブレーキハンドルを足で踏むようにしてるので、右足は90度外側に開いたまま。トドメがアクセル。2つのツマミ付いたマッチ箱くらいのリモコンなのだ。もちろん生まれて初めて操作する操縦システムです。「アクセルは自動じゃ戻らないので、必ず強制的にオフにして下さい。戻さないとブレーキ踏んでも絶対止まりません」。コクピットドルルはこれだけ。おいおい! それだけで世界でトップレベルと言われる鈴鹿のソーラーカーレースで総合2位取ったレーシングカーに乗せるか?

 ジツは本格的なソーラーカーに乗るの、初めてでない。数年前、数千万円とも数億円とも言われるホンダのワークスカーを味見したことある。ソーラーパネルだけでも買えば軽く億を超えるらしい(ホンダは5千万円くらいですよ、と言っていた)。もちろん車体はカーボン。100km近く出したのだけれど、操縦系は常識的。驚くほど乗りやすかった。それと比べ、今回のソーラーカーときたら猛烈にスパルタンだ。ホンダのが現代の戦闘機だとすれば『サンレイク号』は第2次世界大戦の日本製戦闘機。気合いでカバーしなければならぬ!
 でも走り出してみたら、感心しきり。ボディ剛性をキチンと確保してあり(カーボン製)、サスペンションも正確に動く。全く遊びがないのだ。鈴鹿のコースでは圧倒的にコーナリング速度高いと言われるだけある。時にドリフトしてコーナーをクリアするのだとか。動力性能も予想外に高い。ボリューム全開(アクセルじゃない)にするとソコらの乗用車と同じくらい加速し、最高速は100kmに達するという。これなら街中を走っても全く不満ない性能だと思う。ソーラーカーをナメたらアカンです!

 ここで簡単に『サンレイク』のスペックを紹介しておく。搭載する太陽電池パネルは最大800wを発電する。この出力、真上から日光浴びた時の理論値なので、日本なら夏場で650wくらいだと言う。馬力換算すれば0,9馬力程度。原付バイクで6〜7馬力あることを考えれば、驚くほど小さいエネルギーだ。逆に考えると、0,9馬力という限られた出力で、いかに速く走らせられるかというのがソーラーカーのキモ。ちなみにサンレイクは0,9馬力で70kmくらい出ると言うから驚く。
 つまり夏場の晴天なら、70kmで巡航出来ると言うこと。太陽電池出力無制限クラスのソーラーカーだと(サンレイクは800w以下クラス)、130kmくらいで巡航出来る。レースでは曇りもあるため、バッテリーを積む。容量2kA。大型バッテリー8個分/80kgだ。鈴鹿のレースは太陽と2kAのバッテリーだけのエネルギー使い、8時間で何周出来るかという勝負になるが、今年のサンレイクの周回数は79周! 何と500km近く走っているワケ。東京から大阪まで届いてしまう。

 しかも鈴鹿は自転車だとひぃひぃ言うほどアップダウンがキツい。平坦地であれば、もっと走れるそうな。サンレイクの自慢は、800w以下クラスなのに総合3位以内に入れる実力を持つ、という点。上のクラスは、それこそ億単位する非売品極上太陽電池パネルを使い、バッテリーもリチウムなど最先端の軽量タイプ。対するサンレイクの太陽電池パネルは1枚10万6千円の市販品10枚で、バッテリーも自動車用の市販鉛電池である。今年「200万円も!」するモーターを投入したとはいえ、質素だ。
 なんで勝てるのか? 答えは超軽量ボディにあった。東洋紡は『ザイロン』という特殊な繊維を生産している。この繊維、ケブラーの2倍。カーボンの1,5倍もの強度を持ち、重さ3分の2しかない。サンレイクはボディ表面をザイロンで強化することにより(中身は発泡スチロール!)、ボディ重量わずか10kgに仕上げることに成功。10kgの太陽電池パネルと80kgのバッテリーを含む車体重量は170kgだって! これは同じクラスのライバルより10%以上軽いというから凄い。
 普通、速いレーシングカーは美しい、と言われる。でもサンレイクを見ると、お世辞にも美しいと言えない。チームの人に聞くと「そうなんですよ。よく言われます。ところが塗装すれば重くなります。見てくれより軽さを選びました」。ただボディシルエットは十分カッコいいと思う。世の中環境の時代を迎え、自動車は軽量化が求められていく。極限まで軽量化されたソーラーカーを見ると、ヒントになる部分も多い。ザイロンのように軽い素材が市販車に使われるようになれば、クルマも変わるだろう。