このクルマを見て読者諸兄はどう思ったろう? おそらく「セルシオに似てるね」とか「FFのクラウンみたいなコンセプトなの?」みたいな印象を持つのではなかろうか? 確かにスタイルだけ見たなら、そういったイメージになるかもしれない。つまり従来からの高級車路線だな。でもアバロンの狙いは全然違うところにある。少々難しい話になるけど、しっかり理解して欲しい。
さて。日本のクルマが抱えている最大の弱点を知ってるだろうか? 御存知のように、日本車というのは『安くて壊れない』という部分がベースになっている。外国のクルマをお手本とし、安価でトラブルが少ないクルマにしようと努力してきたワケ。だから自動車の根本的性能である『実用性』は、大ゲサに言えばどうでもよかったのだ。だからこそ狭いセダンや、使い勝手の悪い2BOXカーなんかが多い。
自動車の先進国は違う。ベンツを見れば解るように、4ドアセダンというのは広くて当たり前。狭い室内の4ドアなど最初から作る気がないのだろう。VWだってプジョーの2BOXカーだって、日本車と比べれば驚くくらい広いスペースを持っている。おそらく日本人にとっての自動車ってのはカンペキな道具じゃなく、半分趣味や憧れの対象なのだ。
クラウンだってマークUだって、車格からすると圧倒的に室内は狭い。ま、それが日本のハイオーナーカーだったんだろう。アバロンのコンセプトはそういった従来的日本車路線の延長でなく、トコトン実用性に振っている。アバロンのリアシートを見れば、誰だってウナるぞ!
アバロンに搭載されるのは『1MZ−FE』と呼ばれる全くのニューエンジン。トヨタにとっては、おそらく20世紀最後のV6エンジンになると思う。相当に気合いは入っているそうな。ただスペックを見ると、ごく平均的である。一応4バルブツインカムだけど、最高出力は200馬力。日産のVQ同様(このエンジンも日産入魂の作)、出力重視型じゃない。でも乗ってビックリ。恐ろしくトルクフルなのだ。感心したのはアクセルを少し開けた時のパワーが凄いこと。2千回転くらいからチョイと踏んでも、強烈なダッシュを見せる。
従来のV6より常用回転域のトルクは2kgmも上がっているのだから当然か。なんせ2kgmというトルクは、排気量にすると200cc分くらいに匹敵する。3200ccと同等のトルクだと思えばよろしい。VQはどちらかというと高回転型エンジンなので、セフィーロと乗り比べると違いは明確。しかも高回転だってキッチリ回る。実際にデータを取ってもアバロンは駿足で、0〜400mを16秒3程度で駆け抜けるそうな。街中ではものすごく乗りやすいトルクカーブだと思う。
ハンドリングも良好。足回りはアメリカ仕様より多少ハード目に設定されているようだが、スポーツカーじゃないから基本的に乗り心地を重視している。特にハーシュネス(細かい振動)は高いレベルで抑えられているし、騒音関係だって文句ナシ。エンジンの静粛性が高いということもあって、巡航時の快適性はクラウンに匹敵する。テストコースでは180kmでの巡航まで行ったけど、不安なかった。
加えてコーナーを攻めれば最後までコントローラブルなのがエラい! 決してポテンシャルは低くないと思った。写真みたいな走りだって十分に可能だし、走り慣れた道ならさらに派手な姿勢に持ち込むことだって出来ちゃう。荒れた路面を走った時のキックバック(ハンドルに伝わってくる路面からの衝撃)はやや大きめながら、快適度はなかなかのもんだ。ABSのセッティングも優秀。
たいていの人はリアシートに座った瞬間、感銘を受けるに違いない。ドライバーズシートを身長183cm用に設定したって、同じ身長の乗客も足が組めるのだ。アメリカのカタログをみたら「身長190cmの人でも4人でユッタリ乗れます」だと。183cmなんか楽勝である。新型セルシオも広くなったと評判ながら、アバロンはそいつに超えたそうな。もしリアシートのインプレを専門とする評論家が存在するなら、絶対にベタボメ状態だと思う。リアシート居住性は日本車じゃナンバー1であろう。
インテリアはどうだろう? こちらは米人と日本人デザイナーの共同作業によるものだというが、とてもシック。ベージュを使うコーデュネートは、トビ色の瞳を持つ日本人にゃ無理(専門家によればベージュのサングラスを掛けたようになるらしい)。そこに行くと青い目を持つ人種は見事に調和させられる。ウッドを多用したダッシュも非常に高級感があって、このクルマのベースとなったセプターをはるかに超える仕上がりといえる。特にアメリカで製作される革のシートは質感、色、タッチ共に素晴らしく、日本車ではトップクラスのフィニッシュ。とにかくオシャレだ。
ドライバーズシートに座っても快適さは続く。適度に包み込まれる形状のシートを始め、ステアリング、シフトノブの手触りといったものまで入念に考えられている。この味付けは相当苦労したろう。その他、オーディオも低音をしっかり意識してあり、アメリカンポップスやラップといったシンセサイザーを使うソースに対応している。この手の音楽が好きなら大いに満足すると思う。
初めてにアバロンの写真を見た時は「なんて地味なクルマなんだろ?」と思った。なのにトヨタに聞けば「アメリカでの貴重な戦略車種です」という。だからこのクルマが現地でデビューしてすぐ、ワザワザとアメリカくんだりまで行って味見してみることにしたワケである。そして相変わらずピーカンのロサンジェルスで実車を見ても印象はまったく変わらなかった。こりゃ地味だ!
トヨタに好意を持っているヒトなら上手な誉めコトバを見つけるかもしれないが、いろんなメーカーのクルマを自由に選べる立場に居れば特に目を引く部分もない。改めて「う〜ん!」とウナッてしまった。特にワクワクもドキドキもないから、即座にシートにもぐり込み走り出したように思う。で、次の瞬間から、今度は別の意味でウナッることとなる。想像してたよりはるかにオイシイんだもの。
とにかくタマゲたのがエンジンのトルク感。今までの日本製エンジンで、ここまで常用回転域でのトルクにこだわったユニットはない。「このエンジンは4リッターです」と言われたって信じたろう。次いで広さに衝撃を受けた。この時の印象をカートップ誌に掲載した記事中で『腹が減りまくった時に出会うビックマック』と、妙な例え方をしている。ようするに水準以上に美味しくて、しかも満腹するという意味を込めたつもりだ。
その印象は日本仕様に乗っても全然変わらない。足回りが少しシャキッとしたせいかアメリカ仕様よりピリッとスパイスは利いており、ボリューム十分。味も締まった。日本好みにレシピを変えたビックマックといったところだろうか? 一つ心配なのは、果たして「日本人はそんなにお腹を減らしているだろうか?」という点。お腹が減ってれば迷わず食べるかもしれないけど、モスバーガーの『テリヤキバーガー』は、ボリュームこそないけど旨い。クラウンやマーク2と、どういった関係になるか非常に楽しみだ。個人的にはアバロンみたいなクルマも売れて欲しいと思う。