新型VQエンジン
日産が20世紀最後のV6エンジンとして、94年にVQエンジンを開発して以来早12年(初めてVQエンジンの搭載されたクルマはFFになった2代目セフィーロ)。世界各国でいくつもの賞を受賞し、途中で直噴仕様や「怪力」と評されるほどの名機VQ35DEなどを追加し、魅力を保ってきた。しかし、その間にトヨタがクラウンなどに搭載されている新しいV6エンジン「GRシリーズ」、ホンダもレジェンドに使う3.5リッターV6の「J35」エンジンで300馬力を突破するなど、登場時には先進的だったVQエンジンにも多少古さを感じるようになってきたのも事実。この状況を打破すべく、大改良(というよりほとんど新設計)された新型VQエンジンが発表された。このエンジン、内容を見るとトヨタ、ホンダにはない個性を持ったエンジンに仕上がったように見える。今回は日産期待の新型VQエンジンを詳しく紹介していこう。
<何で名前はHR?>
新しいVQエンジンはネーミングからして新鮮である。今までの日産のエンジンだと、エンジン名の語尾はDE(ツインカム+普通のインジェクション)、DD(ツインカム+直噴)のようにエンジンの機械的内容を表すものだったのだけど、今回3.5リッターと2.5リッターの用意される新生VQエンジンのネーミングは“VQ35HR”と“VQ25HR”。このHRにはHigh Response(レスポンスの良い)とHigh Revolution(高回転)の意味が込められている。
<新型VQエンジンの概要>
それでは新型VQエンジンの概要から紹介しよう。新型VQエンジンのコンセプトは今までのVQエンジン同様に「軽く、滑らかに回るエンジン」である。
新型VQエンジンがどのくらい今までのVQエンジンと違うか? 新VQエンジンはボア×ストロークこそ現行のVQ25、35と同じものの、シリンダーブロック(具体的には高さや剛性が違う)、シリンダーヘッドが変更されているなど、使われているパーツの80%が違う部品となっているという。
「ブロックまで変わっている上、80%ものパーツが違っているのに何で名前は同じVQなんだ?」と思われる方もいるだろう。このことについて、パワートレーン担当の薄葉常務は「正直、VQエンジンの名声にこのまま乗り続けたい気持ちがありました。加えて、我々のVQエンジンへの思いは強く“VQ”の名前を残し続けたいという意味もあります」とコメントをしていた(もし名前を変えるとしたら最近の日産のエンジンにはHR、MRなど○Rと付くので“VR”という名前になっていたのだろうか?)。
なお、新型VQエンジンはボア×ストロークは同じものの、現行のVQエンジン違う部分が多く、同じ生産設備では生産できない。そのため、これまでもVQエンジンを生産していたいわき工場内に新設された第2エンジン工場で生産される。
技術的特長1) パワー、トルク編
一番目に付くのは最近の6気筒エンジンとしては異例とも言える最高回転数7500回転! を実現したことである。V6、直6を含めた6気筒エンジンで高回転まで回るエンジンというと、今は亡きスカイラインGT−RのRB26、NSXのC30、C32エンジン、BMW M3のエンジン(どちらも8000回転あたりまで回る)が有名。しかしGT−R、NSX、M3はともに少量生産車であることを考えると、一般的に買えるクルマの6気筒エンジンでは世界最高レベルの高回転エンジンといえるだろう。
ちなみに、高回転まで回るから必ずしも偉いというわけではないけど、ライバルとなる3.5リッターエンジン、トヨタの2GR―FSE(315馬力、318馬力)、ホンダのJ35A(300馬力)、従来型のVQ35DE(フーガ用で280馬力)の最高回転数がだいたい6500回転あたりであることを考えると、新型VQエンジンがいかに高回転まで回るかお分かりいただけると思う。
では、どのようにして7500回転という高回転を実現したかを説明しよう。大きなポイントは各部の剛性アップである。具体的に剛性アップされた部分は新しくなったシリンダーブロック、コンロッド、クランクシャフトなど。写真を見ていただくと、現行型の部品に比べて格段に太くなっていることが分かるだろう。
コンロッドの新旧比較。新型(左側)は太いです
その他にも高回転でのクランクシャフトフトの振れ(振動となって表れる)を防ぐために、クランクシャフトを支えるラダーフレームが奢られた。各部のフリクション低減も入念に行われている。
これがラダーフレームだ!
ちなみに7500回転という最高回転数はVQ35HR、VQ25HRのどちらも同じ。個人的には「VQ25の方はVQ35よりストロークが短いのだから、もっと上まで回せるのではないか」と思う。例えば、2500の最高回転数は8000回転とか。そんな2.5リッターエンジンを載せて、軽量化も施し、高回転までビンビン回るフェアレディZなんてあったらすごく楽しそうだと思うのだけど。
次の特徴は「クラストップレベルの高出力」である。この中には高回転化も含まれるのだろうけど、その他にも給排気、燃焼効率の向上も行われた。
例えば吸気抵抗の低減。「自分のクルマの吸気抵抗を減らしたい」と思ったときには社外のエアクリーナーを使ったりするけど、日産自動車はどうしたか? 今回の新VQエンジンにおいてはスロットルを両バンクに着けてそのままインテークマニホールドに空気を吸い込む「左右対称ツイン吸気システム」とインテークマニホールドに入った空気を吸気ポートへ吸気抵抗なく送り込むための「ストレート吸気ポート」(まっすぐな管)が使われている。この2つの武器のおかげで吸気抵抗は18%も低減された。これならエアクリーナー等を交換する必要するはなさそうだ。
続いて、排気損失の抑制。この目標達成においては排気干渉をなくすための等長エキゾーストマニホールド、フロントパイプ合流部の形状最適化、左右二本出しのマフラー(フェアレディZとの関係が深いスカイラインクーペにはすでに採用されている)が使われている。

エキマニの新旧比較。新型(左)の等長エキマニは機能もいいけど、カッコもいい!
これらのアイテムの採用は排気損失をなくすことによって、燃費やエンジンパワーが大幅に向上した3代目レガシィの行った手法と同じ考えと言っていいだろう。その他にもCVTCと呼ばれる連続可変バルブタイミングコントロール(吸気側が油圧式、排気側は電気式)も採用し全域での燃焼効率を向上させている。
また、新しいVQエンジンは「音」でも相当気合が入っている。今までのVQエンジンも音の分野では吸気音や排気音(マフラーの替わったフェアレディZの音は綺麗で力強くて最高のサウンドの1つだと思っている)には定評があったけど、さらに磨きがかけられ、気持ちの良い音になっているようだ。
ここまで読んでいたただいて、相当気合の入ったエンジンであることは分かっていただけたと思う。気になる馬力、トルク等のスペックは残念ながら今のところ発表されていない。しかし、0〜100kmの加速タイムで従来のVQ25DE、VQ35DEと新しいVQ25HR、VQ35HRを比べると(おそらく現行スカイラインと11月に出る新型スカイラインとの比較と思われる)、1秒以上も短縮されており、クルマ好きがワクワクするような数値になることは間違いないだろう。
技術的特長2)燃費、環境面など
新VQエンジンのパワーや気持ちよさについて紹介してきたけど、現代のエンジンにおいて、避けては通れない燃費、環境性能にも十分配慮されているようだ。
燃費(燃費はエンジンそのもの以外の影響も大きいけど)は、従来と比べてだいたい10%改善されているようだ。燃費の改善された要因を挙げると、エンジン側ではパワー向上にも寄与する圧縮比の向上(10.3から10.6)、CVTC、フリクション低減など。クルマ側でも車体の軽量化、空気抵抗の低減などが行われたためのようである。
排気ガスのクリーン化もより進められた。今までのVQ35DEは星3つだったけど、新しいVQ35、25HRでは星4つに進化。排ガスがクリーン化された要因は始動時の燃焼を安定させる“高着火性イリジウムプラグ”や“超低ヒートマス担体触媒”の採用により、触媒が活性化するまでの時間が短縮されたことなどである。
加えて「エンジンも車体の一部」と言われるように、エンジンにとって重量も大切な要素。新VQエンジンの重量は今までのVQエンジンと変わらないレベルだそうだ。「なんだ、軽くなっていないのか」と感じる方もいらっしゃるかもしれない。しかし、新VQエンジンでは高回転化に対応するため、ブロックなど各部の剛性が高められているため、重量は増加してしまう傾向。重くなった分は樹脂製のインテークマニホールド(今までの鉄製のインテークマニホールドは簡単に持てないけど、樹脂製なら普通に持てるくらい軽い)などの採用により重量は従来と同じ180kg前後に抑えられているそうだ。
ちなみに、コストについて開発担当の方に聞いてみると「現状では高剛性化やスロットルが増えたことなどで前よりも高いですが、(大量生産などにより)いずれ下がってきます」との答えだった。
<新型VQエンジンの展開は?>
新VQエンジンも、今までのVQエンジンと同様にたくさんの日産車に搭載されるようである。まず、この秋発売の次期型スカイライン(北米仕様には6速MTも用意される)に搭載された後、今までVQエンジンが載っていた車種が随時この新エンジンに換装されるのは間違いないだろう。ただし、FF車(ティアナ、プレサージュ、ムラーノあたり)については、CVTの許容回転数との兼ね合いで新エンジンの旨みが引き出し切れないため(高回転まで使えないから)従来のVQエンジンを使うようだ。
このエンジンが搭載されるとフーガはよりスポーティに、フェアレディZはよりシャープになりそうで非常に楽しみ。もし、エルグランドに搭載されたらエスティマに奪われた「ミニバン最強の座」を取り返すこともできそうだ(その場合には燃費もエスティマと同じくらいにして欲しいけど)。
最近、クルマ好きや走り好きからすると、正直なところ日産のエンジンは存在が薄くなっていたと思う。この状況が新VQエンジンによってどのくらい打破されるか? 非常に興味深い。新型スカイラインの試乗がにわかに楽しみになってきた。
レポート/永田恵一
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